所沢育休退園騒動から見える問題とは

「待機児童解消のために、第2子の育児休業中は保育園に通う第1子の面倒も自宅でみるべき」と所沢市は今年4月から、対象となる0~2歳児の退園を求めました。これに対し、保護者らは「育休は就労のための準備期間であり、あくまで就労の一形態」と反発。ついには市を提訴する事態に。

市は、育休終了後には退園した子どもを優先的に復園させるとしていますが、保護者らの間では動揺が広がり、「復園できる保証はどこにもない」「環境の変化で子どもに負担がかかる」などの不安を訴えています。

仕事を続けながら子育てをするというのは、ごく普通の当たり前のこと。しかし、当たり前であるはずの道のりには、信じられないほどたくさんの困難が女性たちを待ち構えています。

    保活、待機児童、2人目の壁… 働くママが直面する現実

出産後も仕事を継続するためには、保育園の確保が大前提です。しかし肝心の保育園は待機児童を抱えており、最近では「妊娠したらすぐ保活(保育園探しのための活動)」と言われるほど、入園可能な保育園を見つける競争は熾烈を極めています。中には、育休中に預け先を見つけることが出来ず、離職を余儀なくされてしまったという人も。

入園という難関をくぐり抜けるだけでも大変なのに、2人目の育休を取ろうとしたら上の子の退園を迫られるなんて、働くママはどこまで負担を背負わされるのでしょうか。これでは、きょうだいを持つこと自体不可能と考える人が続出しても、不思議ではありません。

「2人目の壁」の問題を3年に渡って調査している一般財団法人1more Baby応援団の調査結果からも、このようなママたちの心理的負担の大きさが、ひしひしと感じられます。2015年に実施した最新調査では、既婚者のうち79.6%が「子どもは2人以上が理想」と答えているのに、「2人目の壁を実感する」という回答が75.0%にものぼりました。

ツイッターではこんな声も見られました。

・新聞記者の女性も「2人目は無理」と言う人が多い。同業者の夫は家にほとんどいないからあてにならないし、自分もこれ以上時短勤務をしたら編集を外されると。
・ウチも色々と問題があって、結局1人です
・個人的に、2人目の壁は感じたなー。 2歳差で兄弟欲しかったけど、それって職場復帰してすぐに妊娠しないとダメで。周りへの迷惑考えたらできなくて。

本当はもっと子どもがほしいのに、2人目の壁によって断念したという夫婦も少なからず存在しています。保護者たちの思いを探った別の調査(1more Baby応援団 行政施策評価調査)を見ると、子どもを2人以上持つために自治体に求める施策として、「保育園/幼稚園の拡充やサポート」を挙げた人の割合が56.9%と、経済的支援の項目に次いで高い割合となっています。この結果から考えると、今回の所沢市の件は、そのような期待を見事に裏切った対応だと言わざるをえないでしょう。

    待機児童の順番待ちママは複雑な気持ち

働きながら安心して産み育てられるように、育休中の在園を認めてほしいと思うママがいる一方で、保育園の空きを待つママからは、所沢市の対応を妥当と考える意見も出ています。

待機児童のママは、「保育の必要性」に加え、「預け先を確保できなければ職を失ってしまう」という緊急性も抱えています。取材で出会ったある待機児童のママは、「同じマンションの育休中ママが妬ましい。必要もないのに上の子を保育園に預けてのんびり家で過ごしている。正直イラッとする」と話しました。

しかし、どちらも子育てしながら働くママであることに変わりありません。一番の問題は、保育園の定員数をめぐって限られたパイを奪い合っているという現状であることは明らかです。

    育休退園では根本解決に至らない

前述の一般財団法人1more Baby応援団の秋山専務理事は、専業主婦ママもまた、子育てに対する心理的負担を感じ、ふたり目の壁を感じている方も多いと指摘しています。「働く女性、専業主婦の方を含めて、保育環境の整備によって育児の負担を軽減することが、2人目の壁を乗り越えるためには必要だと思います」とコメントを寄せてくれました。

また、ある保育関係者はこう言います。

「育休中の退園問題は今に始まったことではありません。1960年代頃から『ポストの数より保育園を増やそう』と言われてきたように、長年、待機児童の問題はありました。受け入れ枠を増やして待機児童の問題を解消していくしか手立てはありません。そのためには、保育園の増設・整備とともに、保育士の人材確保を推進する必要があります。保育士の処遇が低いという問題もあり、雇用の面でも急ぎ改善が必要です」

保育環境の整備は働くママにとっても、子どもにとっても非常に重要な問題です。厚生労働省の保育所保育指針には、子どもの発達は環境と密接に結びついていると示されています。大人の都合で何度も入退園させられ、そのたびに生活リズムや人間関係を再構築しなければならないということは、子どもにとって大きな負担であるはずです。それぞれが望む働き方、育て方を、押し付けられるのはなく選択できるように、仕組みを整えていく必要を強く感じます。

内野チエ

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