「グッド・エイジング・エールズ」代表・松中権さんインタビュー(前編)

LGBTの割合は左利き人口と同じ いま企業が向き合うべき「7.6%」の重み

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LGBTの割合は左利き人口と同じ いま企業が向き合うべき「7.6%」の重み
LGBTへの理解が偏見と差別を根絶する

松中権さん

あなたの会社に左利きの人はいますか? AB型の人はいますか? と訊かれたら、答えは「いるに決まってるじゃん」でしょう。では、「あなたの会社にLGBTはいますか?」と問われたら……? 電通ダイバーシティ・ラボの「LGBT調査2015」によると、LGBTを自認する人は全体の7.6%にあたり、左利き、AB型の人が日本人に占める割合とほぼ同じです。であれば「LGBTが会社にいても当たり前」となるはずなのに、実際には、身近なところでLGBTの存在を感じたことがない人が大多数でしょう。

その理由を、『LGBT初級講座 まずは、ゲイの友だちをつくりなさい』(講談社)の著者・松中権さんは、「LGBTの多くは、常に『バレないよう』細心の注意を払って生活している」からだと説明します。「出張・LGBT初級講座」と題した松中さんへのインタビュー、まずはLGBTと社会生活についてうかがいます。

知らないから怖い、怖いから差別が生まれる

――社会人の多くは生活の基盤が勤め先にあり、一日の大半をそこで過ごします。松中さんは、職場でもご自身のセクシュアリティをカミングアウトされていますね。

松中権さん(以下、松中):僕がゲイだということを職場で公にしたのは、2011年。LGBTに関するNPO「グッド・エイジング・エールズ」を社外で立ち上げて、その活動がメディアで取り上げられることになったのが直接のきっかけでした。会社内、チーム内の人たちと信頼関係を築けているという手応えがあったので、カミングアウトしました。

ポジティブに受け止めてくれる人やそれまでと変わらずに接してくれる人もいる一方、僕がいる場でゲイを揶揄するようなジョークをいわれることが、いまでもあります。40代以降のオジサン層に多いですね。彼らは男性中心社会のどまんなかを生きているから、自分たちとは違ういろんな人がいるということに思い至らないようです。悪気はないんでしょうけどね。

――LGBTの存在を知らないわけではないけど、違う世界で生きている人たちだと思っているのでしょうか?

松中:それでも自分の会社にはいないと思っているんですよ。現に目の前に僕がいるのに(笑)。LGBTを身近な存在としてとらえられないと、差別や偏見が生まれます。人間って知らないものをコワいと感じるし、コワいから攻撃する。だからまずは、見えていない人たちに存在を知ってもらうのが先決だと思い、本書を書きました。LGBTといってもセクシュアリティそれぞれだけど、そういうオジサン層と「心と体の性=男性」という点は共通していながら、「恋愛対象=男性」という点は違っている、僕のような存在がまず声を発していったほうが、彼らには届きやすいと考えたのです。

職場でカミングアウトするということ

――松中さん自身、カミングアウトする以前は職場でどんな苦悩を抱えられていましたか?

松中:入社前から、広告代理店という体育会系なイメージの強い企業に入ることへの不安はありました。仕事中のことだけでなく、飲みにいくのは女性が接客するお店なんじゃないかとか、アフターファイブのことまで気にかけていました。仕事とプライベートを完全に線引きして、職場では隠しとおすという選択肢もありますし、僕も長らくそうしてきたのですが、日本の企業では100%割り切るのがむずかしいんですよ。

雑談すると週末の過ごし方や家族の話題が出ますし、マーケティング会議の場でも「君だったらどう思う?」とバックグラウンドに関わる質問が飛び交うことがあります。そんなとき、会話のちょっとしたことからセクシュアリティがバレるのではないかと心配で、腹を割って話せないんです。

――どうしても職場の人とのあいだに壁ができてしまいますね。

松中:「あいつって、そっけないな」「つき合い悪いよね」と思われ、距離をおかれますよね。学生時代なら友だち関係を選べますが、日本の企業に就職した途端、労働時間が長いので交友範囲は職場中心になります。そこで人間関係をドライにすればするほどマイナスのイメージにつながることがある、と僕は身をもって知りました。

LGBTのなかでもパワーマイノリティといわれているゲイでもたくさんの苦悩がありますが、レズビアンであれば、男性中心社会のなかでは立場が弱い「女性」であるうえに、セクシュアル・マイノリティとなると生きづらさが重なります。トランスジェンダーなら、服装やトイレなど物理的な問題も積み重なってくるでしょう。

企業が考えるべき「7.6%」の重み

――最近は国内でもLGBTフレンドリーを掲げる企業を見るようになりました。NPOの活動やLGBT関連イベントを協賛するなどの動きもありますが、松中さんの話をうかがっていると、それ以前に、雇用や待遇の面でLGBTが差別されたり、生きづらさを強いられたりしない社内環境づくりが大事なのだと思えてきます。

松中:その両方とも大事ですよね。企業とLGBT当事者には、たくさんの接点があります。市場にいる「顧客」としてのLGBTに目を向けるには、その企業で実際に働いているLGBTがまずベースとなりますよね。表で「LGBTを応援しています!」といっておきながら、LGBTの社員がセクシュアリティを公にできず窮屈な思いをして働いているとなると、矛盾していますよね。そのためにいま一度、考えてほしいのが「7.6%」という数字です。このパーセンテージ、多いと思いますか?

――多いとはいえないにしても、切り捨てていい数字ではないと思います。

松中:僕自身は、7.6%という数字にとどまらない方がいいと考えています。LGBT当事者がそれだけいる。でも、その家族や友人まで含めると数はもっとふくらみます。さらに企業がふだん接している取引先の人や出入りの業者にも、必ずLGBTはいます。もしかしたら、打ち明けられないというだけで自分の家族がそうかもしれませんよね。会社にいるLGBTの人への差別や偏見をなくすということは、その周辺の人、まだ見えていない人たちにもやさしくいられるということです。

――LGBTにフレンドリーな企業は、ほかのマイノリティにもフレンドリーだし、もっというと、まだまだ社会で弱い立場である「女性」にもやさしいのではないかと期待してしまいます。

松中:調査をすると、LGBTフレンドリーな企業を応援したいという傾向は女性のほうに強く表れます。これを「同じ弱い立場としてのシンパシー」とネガティブにとらえるよりも、「いろんな人が働きやすい環境への期待」とポジティブな受け取り方をしてほしいですね。女性の生き方はますます多様化しています。社会でセクシュアリティの多様性がもっと認められるようになれば、働き方、暮らし方、家族のあり方の幅もさらに広がります。おひとりさまも、同性同士のカップルも、シングルマザーも、国際結婚カップルも、いろんな人が生きやすい社会のほうがいいに決まっていますよね。

>>【後編はこちら】特別扱いしてほしいわけじゃない LGBT当事者がカミングアウトであなたに伝えたいこと

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