子宮頸がんワクチン事件は製薬会社の圧力


>>【前編はこちら】子宮頸がんワクチンは性教育と切り離せない ジャーナリストが語る、副作用問題

2013年に定期接種化されたHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン。子宮頸がん予防のためのワクチンだが、わずか2か月後にその「積極的な勧奨」を中断……手のひらを返したようにも見える国の判断に疑問を持ったジャーナリスト・斎藤貴男さんは関係各所に取材を重ね、『子宮頸がんワクチン事件』(集英社インターナショナル)を著しました。

ワクチンを接種するのは10代の少女。副作用とされる症状に見舞われるのもまた、青春の入口に立ったばかりの少女たち。彼女たちの救済と解決への糸口を求めて、斎藤さんは「このワクチンはいったい何物なのか」を徹底的に調べあげたのです。

海外では定期接種が中断されていない理由

――このワクチンの是非が話されるとき、よく「副作用が起きると騒いでいるのは日本だけ」という声があがりますが、本書では海外での例もたくさん紹介されています。

斎藤貴男さん(以下、斎藤):2014年8月に南米コロンビアの小都市で、たくさんの少女たちがワクチン接種後に倒れ、嘔吐や痙攣など重篤な症状に悩まされました。この例をあげるまでもなく、アメリカでもイギリスでもこのワクチンについて数多くの訴訟が起きています。ただ日本と違い、欧米諸国では定期接種が中断されることはなかったのです。副作用がいくら出ようが裁判がいくら起ころうが、国が方針を変えることはありませんでした。あくまでも社会防衛の論理のほうが優先されるのです。

――つまり、多少の犠牲者が出てもより多くの人が救われるほうを選ぶということでしょうか?

斎藤:私たちは欧米の民主主義を理想視してしまいがちですが、公衆衛生に関しては国家権力が強く発動される傾向はありますね。ほぼ強制的です。その背景には、宗教的な背景や死生観、国民性の違いがあるのでしょう。なかには、ワクチンを打たなかった人がその病気になった場合、より多くの治療費がかかるという制度を導入している国もあります。接種しないと経済的に不利益を被る仕組みを作っているわけですね。

その代わり、日本に比べて副作用に対する補償はそれなりに手厚い国が多いと言われていますが、お金が将来を台なしにされた見返りになるものか、どうか。日本にもそういう考え方が入ってきつつありますし、その裏には製薬会社からの圧力があります。

――症状が出た少女たちの数が全体に占める割合を見ると、とても少ないですね。とはいえ、数が少ないから副作用が起きる可能性はまったく考慮しなくてよい、といわれると、たしかに抵抗を感じます。

斎藤:人数だけの問題でないことは言うまでもありませんし、症状が現れている子たちのなかには、一連の動きを知らずにワクチンとの関係を疑っていない子も少なくないと思われます。今回、取材した医師や関係機関の方々も、みなさんそれぞれ考え方が違うので、医学的な見地だけから語られるべき問題ではなく、思想的にも考えなければいけない問題だと強く感じました。

ワクチン反対派のなかには、「子宮頸がんになるのは運命だから仕方がない、国家によって強制的に打たされたワクチンの副作用よりずっとマシ」と主張する方もおられますが、被害者を重んじるあまり、がんの患者を軽視するような態度は禁物だと思います。気持ちはわかるけど、感情論に終始していては議論が進まない。

大手製薬企業からの圧力

――安全性を疑問視する反対派も多数いるなかで、2013年に定期接種化されたのは、HPVワクチンを販売している外資系製薬会社2社からの働きかけが大きかったと本書では指摘されています。海外でも同じようなことが起きていたのでしょうか?

斎藤:そうでしょうね。1990年代からメガファーマといわれる海外の巨大製薬企業が強大な力を持つようになり、薬の世界を独占しはじめました。WHO(世界保健機関)にも多大な影響を及ぼしています。HPVワクチンをめぐる論争では「WHOが安全性を認めているなら大丈夫」という声もよく耳にしますが、WHOは権威ではあっても神ではないんです。WHOがいいといえば世界のどの国でもいいということはありえないでしょう。

――それなのに、日本はメガファーマが「WHOも認めた」と持ってきたワクチンを、よく議論しないまま導入してしまった、と?

斎藤:日本政府には、当事者意識も当事者能力もなかったと思います。つまり日本としてこれを導入すべきかどうかをほとんど考えなかった。欧米にも副作用の報告があることはわかっていたし、考えなければいけない要素はたくさんあった。たとえば、人種差についてです。それはすなわち遺伝子の違いであり、遺伝子のタイプが違えば副作用の起きやすさも変わります。それなのに、このHPVワクチンについては日本人を対象とした研究自体がメーカーによるもの以外には皆無に等しかったにもかかわらず、あっさり導入してしまったのです。

ひとりひとりが病気とワクチンに向かいあう必要性

――それはたいへん怖いことですね。今後、別の疾患の薬やワクチンに対してもそういうことが起こりそう……。

斎藤:今後、TPPに参加するようになれば、似たようなことがあちこちで起きるでしょうね。いま、アメリカと製薬会社2社はグローバルスタンダードに合わせてHPVワクチン定期接種化を再開するよういってきていますが、厚労省はよくいえば慎重に対応、悪くいえば先送りにしてはぐらかしています。

――そうした世界的な大きな流れがある一方、私たちひとりひとりがどうこのワクチン、ひいては子宮頸がんをどうとらえるかも問われていると思います。

斎藤:ワクチンの安全性について情報開示されるのは当然、大事なことなのですが、誰もがその情報を理解して判断できるかといったら、それはむずかしいですよね。現状では、医師にだってわかっていないことが多いのですから。でも、病気とワクチンに対する考え方を自分なりに持つことはできます。一部の人にこうした疾患が出る危険を否定できないワクチンを、自分だったら打つか、将来、子どもに打たせるか。一度、きちんと考えてみてください。

あとは、大人の女性は検診を受けること。そもそも日本で接種されているHPVワクチンはHPVのなかでも2~4種類のウイルスしか防げませんので、接種していたとしても検診はマストです。細胞ががん化する前に発見できれば、最悪の状況はまぬがれうるのですから、自分のために、大切な人のために、これから出会う人のために、検診を恐れないでほしいと思います。

●斎藤貴男(さいとう・たかお)
ジャーナリスト。1958年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。英国バーミンガム大学終了(国際学MA)。日本工業新聞記者、週刊文春記者などを経てフリーに。著書に『機会不平等』(文春文庫)、『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『戦争のできる国へ―安倍政権の正体』(朝日新書)など多数。2012年、『「東京電力」研究 排除の系譜』(講談社)で第3回「いける本」大賞受賞。

三浦ゆえ

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