『ルポ 居所不明児童』著者・石川結貴さんインタビュー(後編)

「泊め男」を渡り歩く母親たちー『居所不明児童』著者が語る、子どもが消える日本社会の危うさ

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「泊め男」を渡り歩く母親たちー『居所不明児童』著者が語る、子どもが消える日本社会の危うさ

子どもを「いないこと」にする母親たち

石川結貴さん


>>【前編はこちら】子ども時代の不幸は、子ども時代で終わらない 『居所不明児童』著者が語る、虐待が生む負のスパイラル

どこに住んでいるかわからない。就学年齢に達しているのに一度も学校に姿を見せない。それどころか生きているか死んでいるのかも不明……。住民票がある自治体で居住が確認できない、または住民票が抹消された「居所不明児童」たち。『ルポ 居所不明児童ー消えた子どもたち』(ちくま新書)では、そんな社会の見えないところにいる小さな存在に光が当てられています。著者の石川結貴さんは、子どもたちが「消える」原因は、大人、引いては社会にあると断言します。インタビュー後編は、ひと昔前には見られなかった女性の「流動」についての指摘からはじまりました。

SNSで知り合った「泊め男」を渡り歩く女性たち

石川結貴さん(以下、石川):いま、女性たちは流動化しています。数年前だったら離婚してシングルマザーになっても、住んでいた場所を拠点にして働くか、実家に戻るかその近くに移り住むかのどちらかでした。それがいまは、LINEやSNS、出会い系で知り合った男性のところに「1週間泊めて」と転がり込んでしまう。そして気づいたらそこに1か月も2か月も居座っているんです。そこを追い出されたなら、また次の男性を見つける。

私も取材していて驚いたのですが、そういう子連れの女性を受け入れる「泊め男(お)」が少なからずいるんですよ。わずか数日間だけ同棲していた男と一緒に、子どもを虐待死させた22歳の若いお母さんもいました。ほんの些細なことが最悪の事態につながり、子どもの命が奪われ、お母さん自身の人生も大きく変わってしまった……。社会に潜在している危うさのようなものが、いま女性たちに襲いかかっているように見えます」

子育ての責任を負わない親、子どもを邪魔者扱いする社会

――本書にも、子どもを居所不明にするだけでなく死に至らしめる、鬼畜としかいえないような親が何例も出てきます。ただ、その親たちも何か大きな問題を抱えているように見えました。

石川:同じように苦しい状況に陥っても、子どもを大切に育てている人もたくさんいますから、子どもを社会から消してしまうのは親個人に問題があり、責任を問われるべきことだと私は考えます。11歳で居所不明児童になりホームレス生活をつづけた亮太くん(仮名)も、ずっと「好きで産んだんだろ、責任とってくれよ」と思っていたそうです。その子を産もう、育てようと選択をしたのは自分なのだから、子どもへの責任を果たせない理由を「世の中が悪い」「不況だから」と転嫁してしまうのはおかしいですよね。

でも、その一方で全部を個人のせいにしてしまうのも危険です。たとえば、危険だ迷惑だという近隣からの苦情を受けて、「サッカー禁止、見かけたら110番します」と看板を掲げる公園があったりします。子どもの居場所、遊び場所がなくなるだけでなく、子どもという存在が迷惑や邪魔だとされている……いまのお母さんたちは、そんな社会で子育てなければいけないんですよ。

――ベビーカー論争や「子どもの声は騒音か?」問題なども、そんな空気を作っているひとつですね。

石川:子育てってそもそも、すごく非効率的なものです。子どもはすぐには育たないし、マニュアルどおりに進まない。スイッチを押して泣き止むこともない。何事にも効率化を求められる現代社会の対極にある行為です。それに対する許容のなさが親子を密室に閉じ込め、すべての責任を親の肩ひとつに載せてしまっていますよね。子どもの姿を社会から見えなくし、助けの声も聞こえなくなる現状の根っこに、こうした社会状況があることはまちがいないでしょう。

児童相談所から2か月で親元へ戻され、虐待が再開

――居所不明の状態や虐待から子どもが保護された後、親はどうなるのでしょうか?

石川:たとえば米国では里子や養子が受け入れやすい社会で、子どもが日本でいう児童相談所のようなところに保護された後、新しい家族に縁組されることも多いです。親がその子をもう一度引き取りたい、一緒に暮らしたいと望んだら、裁判所命令で更生プログラムを受講させられる州(州法によって違う)もあります。それを受けないかぎり、子どもを返してもらえない。

日本でも、こうした更生プログラムによって虐待してしまう親の「認知の歪み」を正す活動をしているNPOも少ないながらありますが、法的強制力はありません。ひどい虐待にあって児童相談所の一時保護所に保護された子どもも、そこにいられるのは原則2か月まで。9割の子は親元に帰ります。

――この親のもとに返しても大丈夫と判断される基準は何ですか?

石川:共通の基準はなく、各児童相談所の判断になります。児童養護施設や里親などの社会的養護が慢性的に不足しているから、2か月のあいだに親を指導したうえで返すしかないというのが実情です。

――そこまでの虐待をする人がたった2か月で変わるとは思えないのですが……。

石川:劇的に変わることは期待できませんよね。だから虐待が再開される……。本来なら、家族を再構築するために親だけ、子どもだけでなく家族丸ごとへの支援が必要なのですが、児童相談所も次から次へと起きる案件に追われて、継続して関わるのがむずかしい。抜本的でシステマチックな解決策が日本ではほとんどないのが現状です。

――親子が一緒にいるほうがいいという幻想も根強いのではありませんか?

石川:欧米では親と子は別々の人格だから、どんな親のもとに生まれても社会にフォローされるべきだと考えられています。一方、日本では子どもは家族という単位に組み込まれています。そんな家族観もいまものすごい勢いで変化していますが、それと硬直化した行政システムとの乖離が大きくなるばかりで、そこから抜け落ちた子どもがフォローされることはありません。それが、居所不明児童の問題に表れているのです。行政を変えるにはたいへんな時間がかかります。だからこそ私たちひとりひとりのちょっとした工夫が求められているのではないでしょうか。

「189」で救える子どもの命

――私のように独身で、身近に子どもがいない者でもできることがあるのでしょうか?

石川
:はい、これまで児童相談所の全国共通ダイヤルは10桁でしたが、来る7月から3桁の「189」に変わる予定です。「いちはやく」と覚えてください。これを知っているだけで救える子どもがいるかもしれませんよね。おそらくポスターなども作られるでしょうが、これを市役所や公民館に貼っているのでは、肝心の当事者や子どもに届きません。貼ってほしいのはパチンコやゲームセンター、コンビニなど。あとゴミ集積所など生活に密着して必ず人の目につくところ。そういう工夫はお金がかからないので、すぐに実行できるでしょう。小さなアクションの積み重ねが子どもの命を救う……という意識をひとりでも多くの方が持ってくだされば、居所不明児童をとりまく環境も変わっていくと私は信じています。

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