『ルポ 居所不明児童』著者・石川結貴さんインタビュー(前編)

子ども時代の不幸は、子ども時代で終わらない 『居所不明児童』著者が語る、虐待が生む負のスパイラル

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子ども時代の不幸は、子ども時代で終わらない 『居所不明児童』著者が語る、虐待が生む負のスパイラル

児童虐待やネグレクトが生む居所不明児童

小中学校のころをふり返ってみてください。いわゆる「お勉強」だけでなく、集団生活の送り方、人との距離の取り方、目上の人との接し方などなど、私たちは思っている以上に多くのことを学んできました。挙げればキリがないほどで、教育基本法でも義務教育を「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培う」ものとしています。

では、そんな大事な時期を丸ごと奪われている子どもがいるとしたら?

「消えた子どもたち」といわれる「居所不明児童」。みずからの意思で登校を拒否しているわけではなく、虐待や貧困、家庭崩壊が原因で社会に「いない」ことになっている子どもたち。厚労省の調査によると、2014年5月時点でそんな子どもたちの数は2,900人以上に上るといいます。これまでほとんど表面化してこなかった存在を取材し、『ルポ 居所不明児童: 消えた子どもたち』(ちくま新書)に著したジャーナリストの石川結貴さんに、その実態と背景にある問題を伺いました。

住民票がない子どもたち

――本書に出てくる子どもたちは「居どころがわからない」というより「社会から見えなくなっている」状態に置かれています。なかには11歳から家族とともにホームレス生活、という過酷な人生を歩んできた亮太くん(仮名)の例も……。なぜここまでの事態に陥るのでしょう?

石川結貴さん(以下、石川):貧困や虐待も行政とつながれば基本的に支援の対象となりますが、居所不明児童にはその支援が届かない。それは彼らに「住民票」がないからです。ふつうに生活していると住民票ってあまり意識しませんが、各種支援も国民健康保険も、子どもがどの小学校に通うことになるかも、すべて住民票が基になって自治体から案内がいくものです。

なのに、たとえばDV被害から逃れるためといった特別な場合は別として、A市に転出届を出さず、住民票を残したままB市に転居してしまうと、A市からの通知が宛先不明になります。そこで役所が調査して「居住実態がない」と判断されると、住民票が抹消されます。こうして住所不定となったら最後、その子たちは“見えなく”なり、学校とも生活保護などの支援とも結びつかなくなる可能性があるんです。

誰にも拾ってもらえなかった「SOS」

――居所不明になった子どもたちの声は、まったく聞こえてこないものなのですね。家族という密室から声が漏れることすらないまま、死んでしまうという痛ましいケースが本書にはいくつも紹介されていました。

石川:今年4月にも、事件当時3歳の男の子が両親によってウサギ用ケージに監禁され、殺され、荒川に捨てられたという事件が発覚しました。4歳の女児も保護されましたが、標準体重の半分以下だったそうです。そんな小さな子たちが自分から外に向かって声を発するなんて、無理ですよね。皮肉な話ですが、この家庭では子どもが7人いて生活保護や児童手当を不正受給していて、行政の担当者が頻繁に家庭訪問をしていたから事件が発覚したんです。

亮太くんにしてもホームレスを何年も続け、一時的に行政との接触がありながらも、彼のSOSは誰にも拾ってもらえなかった。彼は17歳で罪を犯しますが、逮捕され裁判にかけられることでやっとその過酷な生育歴があきらかになりました。

――子どもの存在が見えないということは、その過酷な状況どころか死まで隠せてしまうということなのですね。

石川:お隣の家であってもその家に何人子どもがいるか知らないし、まして名前もわからないのが、いまの社会ですから。昨年、神奈川県厚木市で発覚した、死後8年近く経ってから白骨死体で発見された男の子の事件が象徴的ですよね。この子も2006年には小学生になっているはずでしたが、一度も登校できなかった居所不明児童です。

こんなふうに誰にも知られないまま葬られた子どもがいままでどのくらいいたのか……。文部科学省の学校基本調査によると、居所不明児童は53年間で2万4,000人にも上りますが、実際のところ正確な数は把握できませんし、過去までさかのぼるとなるともう完全に闇の中なんです。

集団生活を学べずに社会からドロップアウトしてしまう

――本書を読んでいると子どもにとって学校という場がいかに大事なのかがよくわかります。

石川:貧困家庭の子で「給食を食べられる」という理由で登校する例もありますが、どんな理由でも学校にだけは通いつづけたほうがいいと私は思います。学校で過ごす毎日の時間って、子どもにとってすごく大事! 勉強だけでなく社会の常識や人間関係など、いろんなことを学べます。

居所不明にかぎらず、虐待家庭の子は、私たちが「習った」という意識もなく身につけている常識のようなものが、すっぽり抜けていることがよくあります。夜寝るときにパジャマに着替えることを知らない。ドライヤーそのものを知らないから、お風呂あがりも髪が濡れっぱなし。いわゆる生活習慣や一般常識が身についていないのです。さらに社会に出て働こうとしても「履歴書って何?」となるし、契約書の文字が読めない。行き着く先は、女の子ならセックスワーク、男の子ならブラック系の非正規雇用や犯罪組織というパターンも少なくないです。

――亮太くんもそんな環境にありながら知的好奇心を失わず、独学で漢字を勉強したりしています。ふつうに学校に通えていたら、彼にはいろんな可能性があったのに……。

石川:虐待家庭の子や居所不明児童を救うことは、未来の私たちの社会を救うことでもあります。セックスワークや犯罪組織からもはじかれて若年ホームレスになり、20代のはじめから生活保護という例もあれば、刑務所に入ってしまう例もあります。そのコストを負担するのは、社会全体です。

そうした道をまぬがれても、子ども時代の不幸が子ども時代で終わらない。子どもを産んでも育て方を知らないため虐待をしてしまい、結果、子どもを施設にあずけることになる。必ずしも負のスパイラルが起きるわけではありませんが、可能性としては高くなります。いまそんな環境にある子たちを救えば、未来の子どもたちをも救うことになる……そのことを知ってほしくて、本書を書きました。

居所不明児童の置かれている状況を知れば知るほど、子どもたちには一片の罪もなく「これはひとえに、大人の問題である」と痛感します。後篇では、取材をとおして見た大人側の闇について、石川結貴さんに引き続きお話いただきます。


>>【後編に続く】「泊め男」を渡り歩く母親たちー『居所不明児童』著者が語る、子どもが消える日本社会の危うさ

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