増加中の女性ハンターが狩りを始めるワケ

井口和泉さん

みなさん、“ジビエ料理”をご存知でしょうか?

いまひとつピンと来ない人も多いかもしれませんが、ジビエ料理とは狩猟で獲ったイノシシやシカなどの野生動物を材料にした料理のことです。実は2014年は料理業界の間で空前の“ジビエ料理”ブームと言われ、雑誌や専門書がこぞってジビエを特集し、都内には新規オープンしたジビエ料理店が急増していたのです。また、狩猟に興味を持ち、自分たちで獲って食べる人もじわじわと増え、関連本も多く登場しています。

そんな中、2015年2月に発表された『料理家ハンターガール奮闘記 ジビエの美味しさを知らないあなたへ』(朝日新聞出版)は、フレンチを中心とした料理家・井口和泉さんが、狩猟免許を取り、新米ハンターとして奮闘する様子を描いた1冊。料理家としてジビエ料理を作ってみたいという気持ちや、生き物にとどめを刺す時のためらいや後悔の念がいつの間に消え、「おいしそう」に変わっていくのか、などの疑問が綴られている。

著者の井口さんに、なぜ今ジビエ料理や狩猟が話題になっているのか、実際に狩猟の現場に入ることでわかったことなどについて、お話をお伺いしました。

東日本大震災をきっかけに、自給自足を考えるようになった人が増えた

――今、狩猟に興味を持つ人が増えているのでしょうか?

井口和泉さん(以下、井口):狩猟に注目が集まるようになったのは、東日本大震災の時、自給自足しなくちゃと考えるようになった人が増えたことが大きいと思います。とくに関東の人たちは町に何も食料の備蓄がないということを痛感して、畑や狩猟に関わり始めた方が多いようですね。

女性のハンターも関東を中心に増えていて、ここ数年で女性の猟師を追ったルポ『女猟師』(エイ出版社)や、大日本猟友会が監修をしている『狩りガールが旅するおいしいのはじまり 山のごちそうをいただきます!』(講談社)といった本も発売されています。

本の中でも登場する、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり─』(木楽舎)著者の畠山千春さんとは同じ福岡在住のため、狩猟免許試験を同じ日に受けたり、彼女が主宰した鳥を絞めるワークショップで調理を担当したこともあります。

それから、最近ベジタリアンの人たちの中で、基本ベジタリアンなんだけど、自分でとったお肉だけは食べてもいい、という考えの人が増えているんですよ。「ベジタリアンじゃないじゃん!」と思いますけど(笑)、彼らなりの納得できる理由を持ち、お肉を食べる人も増えているみたいです。

――ハンターガールとして、どんな風に活動されているんですか?

井口:現在は、子どもの造形教室を開く江口政継さんとシェフの吉田拓也さん、地域活性化の仕事を数多く成功させているデザイナー兼アートディレクターの先崎哲進さんたちとともにハンターチーム「tracks」を結成し、毎年10~2月の猟期に活動しています。

狩猟と言うと、まず鉄砲猟を思い浮かべると思いますが、私たちは罠をしかけて、引っかかった鳥獣を鉄パイプで気絶させ、ナイフで仕留める罠猟です。私は仕留めることはしないのですが、できるだけ狩猟の現場に同行して、ジビエ料理を作る加工係を担当しています。

狩猟の現場は何度見ても怖い

――立ち会っている時はどういう気持ちですか?

井口:何度見ても怖いですね。相手も戦闘モードでやってくるのでチームの吉田さんであったり、江口さんであったりも、それが怖くないわけではもちろんない。

でも、相手は罠にかかってしまっていて、逃がしても傷つけるし、逃がす訳にもいかない。それなら、できる限り苦痛を感じさせないよう一発でやるしかない、と覚悟を決めた方がいい。そんな決意を持って挑んでいる彼らを見ると、恐いばっかりふにゃふにゃ言ってもいられないなという気にはなります。やっぱり大きな動物だとあきらかに反応が大きいし、おびえている様子も伝わってくるし、慣れることはないですね。

――狩猟に携わり始め、周りの方に驚かれませんでしたか?

井口:以前からSNSで食べたものや収穫した野菜などの記事をアップしていたのですが、とくに前ぶれもなく、今からイノシシ捌きますよとか、イノシシのお肉がおいしいとか、そういう記事を書き始めたので、「どういうこと?」とみなさん驚いた時期があったみたいですね。ただ戸惑いながらも、料理の仕事をしているから何か考えがあるんだろうな……と思ってくれていたようで、本を出して、親しいけど、友達よりも少し遠いぐらいの方々が「読んだらすごく納得した」とおっしゃって下さいました。

母には最初の頃に狩猟の現場に行くのは構わないけれど、とどめを刺さないでときつく言われました。一時期はお肉を持ち帰ると、うーん困ったな……という顔をされていたんですけれども、全部調理して、こないだのお肉こうなったよと見せていくことで、無駄にしないで食べているんだということをだんだんと理解してもらえるようにはなってきました。今は猛反対はされていないですね。

>>【後編はこちら】野生動物の肉の味は「一期一会」 ハンターガールに聞く、ジビエ料理の魅力

●井口和泉(いぐち・いずみ) 福岡県在住。代官山イル・プルー・シュル・ラ・セーヌでフランス菓子、料理を学ぶ。同校、ル・コルドン・ブルー東京校、フランス国立製菓学校イッサージョー校にてディプロム取得。庭から摘んだハーブや野菜を用いた料理、四季折々の保存食と酵素作りなどの料理教室ほか、全国各地での講義やワークショップ、商品開発、生産者と共催しての料理会など多岐に渡り「おいしい」にかかわる。保存食作りとピクニックを軸に、旅先の土地と食卓と人をむすぶレシピを提案中。2013年狩猟免許取得(網、わな、第一種第二種銃猟)。

上浦未来

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