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2015/04/28
支援企業が語る当事者の見えない現状

外山雄太さん

>>【前編はこちら】LGBTのために、いま企業は何を学ぶべきか―IT業界やエステ業界も参加する、企業研修の必要性

LGBTの人たちの結婚式や人生設計支援、LGBTの受け入れを考えている企業への研修などを手がけるLetibee(レティビー)という会社がある。前編に続き、後編ではいま企業が抱えている課題や、実際に行っている研修内容についてお伺いする。

LGBTだからといって、全員が同じことで困るわけではない

――LGBTに関する知識は人によって差が大きいように思うのですが、研修をする上で難しいと感じるところはありますか?

外山雄太さん(以下、外山)
:今まで「男か女」という価値観を持っていた人たちが、急に「それ以外のセクシュアリティもありますよ」と言われても、やっぱり「はい、そうですか」とはいかない。それまでの価値観を転換することはすごく難しいことなのだと思います。

“男女”という価値観は無意識のレベルまで刷り込まれていて、例えばトイレが男性用と女性用に分かれていることに違和感を覚える人はほとんどいないですよね。結婚式での新郎新婦という呼び方にしても、当たり前すぎて普段は何も思わないけど、じゃあLGBTの場合はどうなるのかと言われると困るわけです。そういった当たり前になってることを一つ一つ変えていくというのは、なかなか難しい作業だと思います。

――企業にLGBTの社員が入ってきた場合は、どんなことに注意してくださいということを研修するのですか?

外山:LGBTとはいえ、みんながみんな同じところで困るわけではないんです。例えば身体は男性で心は女性というトランスジェンダーの方でも、手術をして性別を変えたいという人もいれば、身体に対しての違和感はそんなにないという方もいる。トイレも男子トイレでも全然大丈夫ですっていう人もいれば、絶対に女子トイレじゃないと嫌だという人もいる。でも見た目が女性にしか見えないんだったら女子トイレでもいいかもしれないけど、多少男性っぽさが残ってたらどうするのか、とか。

一つのことをとっても個人の要求とか、それに対する対応は変わってくるので、研修ではLGBTの基礎知識の部分を教えたら、あとは他の企業が実際にどういう対策をとっているかというロールモデルをお見せして、その上で自分たちの企業ができることを考えてくださいね、とか一緒に考えましょうという感じでやっています。でもひとりひとりの要求が違うというのは、突き詰めればストレートの人も一緒だと思っています。

カミングアウトできている当事者はまだ少数

――ダイバーシティが叫ばれる中、LGBTが一般的にも知られるようになったことで、企業側が抱えている悩みというのはありますか。たとえばLGBTの社員をどう受け入れたらいいか分からないといったことで悩んでいるとか。

外山:実際には、企業が対応に困るほどカミングアウトできている当事者がいないというのが実情ですね。性的少数者は全体の5%、つまり20人に1人はいるのですが、いないことにされているというか、まだまだ可視化されていない。そして今問題だなと思っているのが、LGBTやダイバーシティというワードだけが独り歩きしていて、肝心の当事者の姿が見えないことです。企業においても「今話題になっているから、対策をしないといけない」ということだけが先行している。

例えばマンガボックスで連載されていた『境界のないセカイ』自主規制問題。漫画の中で、「女性なら男性と恋をするのが普通でしょう?」というような内容のセリフがあったのですが、LGBTの団体からの苦情を恐れて、連載が急遽打ち切りになったのです。でも作者の方は、物語が進むうちにこの考え方に疑問を呈していくストーリー構想を考えていたと言います。LGBT当事者の中でも、そこまで過剰な配慮をして、自分たちを腫れ物扱いしてほしいとは思っていないという声が多くありました。実際に当事者がどう思っているのかということが全然知られていないんです。

――ダイバーシティを推進しようとしても、当事者が見えていないのでは意味がないですよね。当事者を可視化するためには、そもそも当事者がカミングアウトしやすい社会にしていかないと、ということだと思うのですが、ただ、中にはカミングアウトしたくないという方もいると思います。そういった人たちについてはどう思われますか。

外山
:カミングアウトは強要できるものではないですし、いろんな環境や状況があるので、それが正義だとは思っていません。ただ自分のセクシュアリティって生活のいろんな部分に関わってくるものなので、クローズド(カミングアウトしていないこと)で生きるのは、いろいろな場面で困難にぶつかってしまいます。Googleでダイバーシティを推進している方の言葉ですごく心に残っているものがあって、「自分のセクシュアリティを公にして働けない職場で自分らしく働けるわけがない」と。どんなに優秀な人材でも、自分らしく働けていない職場では一生懸命頑張ろうとは思えないですよ。

LGBTは思春期の自殺率が高い 子どもへの教育を

――企業が優秀な人材を確保するという観点からも、カミングアウトできる環境を作ることが大事だと。でも日本の企業はまだまだそこまでいっていないのが実情ですよね。学校などでもLGBTについて教えればいいと思うのですが。

外山:本当にそう思いますね。僕も大学で講演をすることがありますが、学校関係者の中には大学で教えるのはいいけれど、小学校や中学校で教えるのは早いんじゃないか、という意見があって。要はLGBTについて教えることを性教育だと捉えているんですね。

でもLGBTは個人のアイデンティティーの話です。価値観が柔らかいうちにぜひ教えてほしいと思っています。実際、思春期に悩んでいるLGBTの人たちはとても多く、彼らの自殺リスクはそうでない人よりも圧倒的に高いと言われています。自分自身のことを考えても、LGBTのことをきちんと知っていれば、高校生の頃あんなに悩まなかっただろうと思います。もしカミングアウトしたときに誰かに拒絶されていたら、もしかして自分は生きていなかったかもしれません。

――企業研修に関して、今後もっと広げていきたいといった展望はありますか。

外山:今は都内の企業が中心なので、今後はLGBTに関するサポート体制が少ない地方などでも開催したいと思っています。日本がLGBTを普通にカミングアウトできる社会になるにはまだまだ時間がかかりそうですが、研修などを通して少しずつ理解が進めばいいと思っています。

(東本由紀子) 編集協力プレスラボ

●外山雄太
1990年生まれ。2014年慶應義塾大学卒業。高校時代の失恋やカミングアウトを原体験として、在学中にLetibeeをスタート。「好き な人を当たり前に大切にできる」社会を目指して活動している。在学時代から始めたイラストレーターやグラフィックデザインのスキルを活かし、 Letibeeではブランディングやデザインディレクション、コンセプトメイキングなどを担当。 
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