サービス精神に苦しんだまんしゅうきつこ

まんしゅうきつこさん

>>【前編はこちら】美人漫画家がアルコール依存症になったワケ 素顔を明かした「まんしゅうきつこ」インタビュー

最近までアルコール依存症で苦しんでいたとは思えないほど、軽やかに笑いながらその経験を語るまんしゅうきつこ氏。話を聞いていると、発言の中にあるキーワードが多いことに気付く。それは「面白い」という言葉だ。「ブログの面白いネタがなくなった」、「アル中の話を本にしたら面白いんじゃないかと思った」、また、著書『アル中ワンダーランド』(扶桑社)に収録されている鼎談でも、「幸せになってしまったら、面白い漫画が描けない気がして」と発言している。

「面白い自分であること」に憑りつかれる経験でなくても、似たプレッシャーに心当たりがある人もいるのではないだろうか。たとえば、他人から存在を承認されるために「優等生」「いじられキャラ」「天然」など求められるキャラクターを演じることに執着してしまったり……。そんな人の心の隙間を、まんしゅう氏のインタビューから感じる。

アル中になる前はオクラにハマっていた

――アル中になったご経験から、どんな人がアル中になりやすいと思いますか?

まんしゅうきつこ氏(以下、まんきつ)
:うーん……、一つは、依存体質の人。あと私、過剰なサービス精神があって、それもアルコールに走った原因なんじゃないかと思っています。

今はもう一滴も飲んでないんですが、私ね、今は毎日チョコレートを食べているんですよ。何か一つのものに依存し続けちゃうんですよね。お酒の前はね、オクラにハマってて、ずーっとオクラばかり食べてたんですよ。そこで止まればよかったのにね(笑)。オクラをさっとゆでて醤油で食べるの。あるとき、すごくオクラを食べたい、って思って食べて、それがおいしくておいしくて、食べ続けちゃった。人間ってそのとき食べたいものが体が一番求めてるものって言うでしょう? それを食べた瞬間の快楽を脳が記憶しちゃったんじゃないかな。

―― 一方で、サービス精神というのは?

まんきつ:若い頃からそういうところはあって、酔っぱらって一度脱いじゃったこともあるし……。お酒を飲むと、明らかに自分が面白いことを喋れているっていう自覚があるんですよね。打ち合わせとかトークイベントに出る前とか、何か面白いことを言わなきゃ!って追い詰められて、飲んじゃう。

――酔っ払うとどうなるのか、今お話いただいている姿からは想像つかないです……!

編集T氏
:人格が変わるというより、その面白さは普段のまんきつさんの延長線上にはあるんですが、とにかくフラッフラになるので端から見てると危なっかしいですね(笑)

まんきつ:酔っぱらってるとね、今より10倍面白くなるから!

求めている理想が高く、30歳まで一作も書けなかった

――人前に出る以上、絶対的に「面白い自分」でありたい、と思ってしまうのでしょうか?

まんきつ
:そう、そうなんですよね。たぶん、自分の求めてる理想が高いんです。そこに到達してない自分はもうちょっと頑張らないといけない、っていう思いが強い。漫画を描いていても、この程度だと公開したくない、としょっちゅう思います。それも、「まんしゅうきつこ」って名前が関係していて、名前のわりに面白くないって言われるなー、これ出したら名前に負けちゃうなー、という作品は出したくなくて。ぐうの音も出ないようなものを書かなきゃ、という気持ちが自分の中にいつもあるんですよね。

――自分で設定している基準に達していないと、自分にOKを出せないんですね。

まんきつ
:そうなんですよ! 昔からずっと漫画家になりたいと思いながら、30歳までまともに一作も書いたことがなかったんですが、いつも5ページくらいまで書いて、ああもう全然面白くない才能ない、ってそこで手が止まってというのを繰り返していたんです。今思えば、とりあえず仕上げるっていうのが何よりも大事だったんだなって思うんですけどね。書いていくうちにうまくなるわけだし。

ブログに関しても、ちょっとでも面白くないと、すぐに「今回は面白くなかった」って書かれるでしょう? 公開するときに、あー自分の中でこれは合格ラインいってないなーって思っていると、検索すると、面白くなかったって感想がやっぱり書かれていて。そういうのもあって、お酒に走っちゃったんですよね。

――先日、『週刊SPA!』に初の顔出しグラビアが掲載されていましたが、これももしかして「面白い」と思ったから……?

まんきつ:そうです、私がこういうことやってたら、面白いかなって。それに、とにかく本を売らなきゃっていうのもあって。もうね、編集Tさん、この本作るとき本当にすごく一生懸命やってくれたんですよ。だからSPA!でデカい顔をさせてあげたいなって(笑)。売れたらデカい顔できるじゃん?(笑)

編集T氏:できますかね(笑)

まんきつ:まあでも、こんなんだから「まんしゅうきつこ」なんて名前をつけちゃったんですよね。周りの友達にウケるかなって。本当に最初は友達に見せるためだけに書き始めたブログなんですよ。で、万が一ネットで変な人に絡まれそうになっても、「まんしゅうきつこ」って名前なら向こうから逃げていく、と思ったんです。でも逆効果でしたね。名前が下品だとか説教されるわ、下ネタOKだと思われて無駄にセクハラされるわ。この名前だと男の人への威嚇になると思ってたのに、浅はかだったなと後悔しました。

改名候補は下ネタNG!

――Webサイトの『日刊SPA!』で改名する、と宣言されていましたが、本当にするのでしょうか?

まんきつ:改名はもう、今すぐにでもしたいです。

編集T氏:でも、今、本が出たばかりだからすぐというのはちょっと……(苦笑)。

まんきつ:むしろ、本を作ってる間から「改名したいんです」ってTさんに相談していたくらいなんです(笑)。この先、私がどんなに真面目なことを書いても、「まんしゅうきつこ」って名前だと、読んでもらえなくなることもあると思うんですよね。Webで募集した候補含めて、いろんなものの中から、霊能者の方の手かざしで決めてもらおうと思っています。下ネタっぽい名前は全部候補から外しているはず。候補に残したのは「きつこ・リラックス」とか、「金縛り解く子」とか。

編集T氏:「タンポン石井」もあったはず……。

まんきつ:あっ、どうしよう! 霊能者の指定でそれに決まっちゃったら意味ない!

(朝井麻由美) 編集協力プレスラボ

●まんしゅうきつこ
美大を卒業後、しばらくはOLとして働く。2012年から始めたブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」がネット上で大反響を呼び、連載を複数持つ人気漫画家に。2015年4月に初の著書となる『アル中ワンダーランド』(扶桑社)、『ハルモヤさん1』(新潮社)を刊行。
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