まんしゅうきつこさん

まんしゅうきつこさん

3年前、謎の人物によるブログが突如開設された。ブログの名前は「オリモノわんだーらんど」。書いているのは「マン臭きつ子」。その名前のインパクトはもちろん、内容の秀逸さで、またたく間に話題になった。それまでは本当にただの主婦だった「マン臭きつ子」は、その後「まんしゅうきつこ」に名前を変え、漫画家としてさまざまな雑誌で活躍。

「実は超美人らしい」、「なんでこんなペンネームにしてしまったの……?」など謎が謎を呼んでいたのだが、この4月に初の著書を刊行することとなった。タイトルは『アル中ワンダーランド』(扶桑社)。テーマは、急激な人気上昇の陰で人知れず苦しんでいた自身のアルコール依存症だった。著書刊行にあたって、まんしゅうきつこ氏にインタビューした。

ブログ更新のプレッシャーがきっかけ

――アルコール依存のきっかけは何だったのでしょう?

まんしゅうきつこ氏(以下、まんきつ):ブログを始めてからですね。ネタに悩んで。ネタがすぐなっちゃったんですよ。誰しも人生で経験した面白い鉄板ネタって5つくらいはあるでしょう。それを出し尽くしてしまって、どうしよう……って思っちゃったんですよね。それでも、読んでくださる方から更新はまだですか、って言われて心苦しくて。

――それでお酒に逃げるように……?

まんきつ:そう、もうドーピングみたいな感覚でした。飲み始めて1年くらいは、むしろ飲んでいることですべてうまくいっていたんです。最初は本当にビール2、3杯でいい気分で漫画を描けていたので。でも、アルコールって依存するようになると、どんどん段階を踏んで度数の高いものに流れていくんですよ。ビールから焼酎、ワイン、日本酒、最終的にウイスキーをストレートで飲むようになってしまった。2年半くらいかけてじわじわと。最後のほうはもうウイスキーしか飲んでいませんでした。度数が40くらいあって、手っ取り早く酔っ払えるので。

――ワインの時期はワインばかり、ウイスキーのときはウイスキーばかり、という飲み方だったのですか?

まんきつ:買うときに、銘柄とか味とかよりも、ラベルを見てアルコール度数を確認するんですよ。何%あるかな、って。

――「おいしい」ということが基準ではないんですね。

まんきつ:そう。で、ラベルを確認して、「うわ3.5%か、こんなもん酒じゃねぇ!」って棚に戻して(笑)。味とかはもう何でもいい。酔えればいい。お酒の種類によってアルコール度数ってだいたい決まっているので、焼酎の時期は焼酎ばかり、日本酒のときは日本酒ばかり、となっていたんだと思います。さすがにウイスキーの時期になると、40度まで来ちゃったか……と自分でも思いましたけど(笑)。お医者さんに行かなかったら、最終的にはスピリタス(アルコール度数96度)までいっていたと思うので……怖いですね。

それで、このアル中の話を書いたら面白いんじゃないかな、ってちょっと思っていたときに、編集のTさんから「書きませんか」って言われたんですよ。ちょうどTさんと打ち合わせで下北沢のお店でお酒を飲みながら……

編集T氏:「私アル中みたい」って笑いながら飲んでましたね(笑)。

まんきつ:「私、アル中みたいだから今度病院行くんだ~」って言いながら飲んでました(笑)。そうして出来上がったのが『アル中ワンダーランド』です。

やがて昼間から飲み続ける地獄が始まった

――『アル中……』の中で、「エタノールすら飲んでた」と書いてあったのが衝撃でした。

まんきつ:買い置きのお酒がなくなったときに家じゅう探して見つけたのがエタノールで、もうこれしかない!って。

――おいしいんですか?

まんきつ:いや全然!

――ですよね。

まんきつ:どうしてもマズいから、トマトジュースで割ったんですよ。トマトジュースと割ると何でもおいしくなるんですよね。それにみりんを足したりして、わけのわからないカクテルのようなものを作ってました(笑)。

――ここ2、3年のことなんですよね。その間、雑誌などでご活躍されていましたが、お仕事ってちゃんとできるものなんですか……?

まんきつ:本当に酒量が増えてしまって、昼間からちびちびずっと飲み続けるようになってしまってからは地獄でしたね。飲んでいるときはいいんだけど、翌朝になると気分の落ち込みがすごくて、その日一日仕事がまったく手につかなくて。その仕事ができない状態を解消しようとしてまたお酒を飲んじゃう……の繰り返し。もう、道具としてお酒を使ってました。で、少しでも意識がはっきりしている数時間の間に急いでやって、ギリギリ納期に間に合うように仕上げる。

ただ、酔っぱらいながらだと、ものすごく家事がはかどるんですよ。普段窓なんて拭こうとか思わないのに、酔っぱらって気分よくて、あ、窓も全部拭こう♪とか、ガスコンロの周りちょっとキレイにしよう♪とか、ルンルンになっちゃって(笑)。普段やりたくないようなことが楽しく感じられちゃうんです。

――気が付くと家がピカピカに(笑)

まんきつ:千鳥足で高圧洗浄機でブォーって家の壁をキレイにしたこともありました(笑)

>>【後編はこちら】「名前負けしてる」と言われたくなかった まんしゅうきつこが取りつかれた「面白い自分」願望

(朝井麻由美)編集協力プレスラボ

●まんしゅうきつこ
美大を卒業後、しばらくはOLとして働く。2012年から始めたブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」がネット上で大反響を呼び、連載を複数持つ人気漫画家に。2015年4月に初の著書となる『アル中ワンダーランド』(扶桑社)、『ハルモヤさん1』(新潮社)を刊行。
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