途上国で自由を縛る慣習と戦う少女たち

子どもたちを過酷な家事労働から解放させるためネパール政府に訴えたウルミラさん(C)プラン・ジャパン

世界各地に存在する過激派組織の実態が、メディアを通して盛んに報道される近年。日本人も犠牲になった人質事件や襲撃テロなど、その活動は平穏な生活を脅かし続けています。そうしたなか、パキスタンの過激派組織タリバーンから銃撃を受けた経験を持ちながらも、女性が教育を受ける権利を訴え続けているマララ・ユスフザイさんが、昨年、史上最年少の17歳でノーベル平和賞を受賞し注目されました。

少女が学校に通うことが満足にできず、人身売買や早すぎる結婚を強いられる事例は、紛争地域のみならず今なお世界中で後を絶ちません。

なぜ少女、そして女性が弱い立場に追いやられるのか。開発途上国、さらには先進国においても度々取り沙汰される女性を取り巻くジェンダーの問題。その実情について、途上国の子どもたちの自立を後押しする活動を続ける国際NGO「プラン・ジャパン」のスタッフで、『わたしは13歳、学校に行けずに花嫁になる。』(合同出版)の著者お三方に話を伺いました。

世界中で“もうひとりのマララさん”が活動している

――紛争地域や途上国では、子どもや女性が自由や権利を奪われるケースが非常に多いですよね。そうした事態に対して、10代の少女だったマララさんが当事者として声を上げたことは、世界に強いインパクトを与えました。

奈良崎文乃さん(以下、奈良崎)
:マララさんの登場によって、国際社会において各国のリーダーたちが女性の権利に、より問題意識を持つようになりました。これは大きな前進であり希望だと思います。

同時に、それぞれの地域には“もうひとりのマララさん”がたくさん活躍していることにも注目してほしいです。本書のなかにも登場しますが、家事使用人として無償で働かせる「カムラリ」という慣習から、幼い子どもたちを解放させるべくネパール政府に訴えたウルミラさんなど、これまでの古い習わしを変えていこうとする動きが若い世代では多く見られます。

――そのような変化が最近増えてきた理由として、どんなことが考えられますか?

奈良崎
:情報が行きわたる機会が増えたということと、我々のような国際組織の活動が広まってきているからでしょうか。たとえば、プラン・ジャパンでは、現地で女の子クラブや子どもクラブというのを作っています。そこには権利が何かを知らない、学校へも行ったことがない子どもたちも集まってくるのですが、「権利って何なんだろう」「自分たちの地域社会って客観的にみるとどうなんだろう」と考えてもらいます。

自分たちの周りで起きていることを、最初は絵に描いてみたり、詩にしてみたり遊びながら学ぶ場を作ります。仲間たちと意見を交換しあうなかで、もしかしたら自分たちのコミュニティには課題があるかもしれないと気付くことがあります。その情報を発信し、またどのようにしていきたいのかを考えて、当事者意識を持って内側から変えていこうとする。そこに我々のような国際組織も協力することで、いいサイクルができているのかもしれません。

途上国で自由を縛る慣習と戦う少女たち

左からプラン・ジャパンの久保田恭代さん、寺田聡子さん、奈良崎文乃さん

慣習を否定するのではなく、健康被害を伝え気づいてもらう

――しかし、その土地に根付いてきた慣習を変えるのは容易ではないですよね。どのような過程を経て意識を変えていくのでしょうか?

久保田恭代さん(以下、久保田)
:意識を変えるのは一番難しいことだと思います。実際のところ、一世代変わらないと難しいくらいの時間を要する気がします。異文化圏から来た外部の人間が突然やってきて、頭ごなしに否定しても、到底受け入れられません。それはどこの国や地域でも同じで、「変わることで自分が損をするのではないか」「自分の権利が脅かされるのではないか」と変化によるマイナス面に恐れを感じることが原因なのだと思います。

そのため、私たちとしては「その慣習を変えることで、女の子本人だけでなく、家族も地域も幸せになる、得をする」ということを理解してもらうことが大事だと考えています。「女の子が教育を受けて、就職できて収入も増えれば家族も助かる」ということを論理立てて説明します。そのうえで納得できる事例を作っていくと、頑に変化を拒んでいた別のコミュニティが影響を受けて変化する。そのようなスパイラルが上手くできていくと、一気に変化が広がるんです。

――そうしたスパイラルが上手くいった事例として、具体的にどのようなことがありますか?

久保田
:「女性性器切除」の例が特徴的かもしれません。アフリカをはじめとする国で2000年以上にわたって存在する慣習で、女性器の一部を切除または切開します。大人への通過儀礼として行われており、それをしないとお嫁に行かせられないので、するべきものという考え方が根付いています。麻酔もなく行われるので激痛をともないますし、不衛生な環境で行われるので感染症の危険もあります。ただ、彼らにとってはアイデンティティーになっているので、だめだよといっても自分たちの文化を侵害されたと思うだけです。

そのため、まず健康被害を伝えます。実は、女性性器切除をした場合、女性本人や生まれてくる子どもの死亡率が高いんです。「そういえば、確かに自分たちの村は死産が多い」と気づくと原因と結果が結びつく。元気な赤ちゃんが生まれて、村が栄えれば長老たちも満足する。そうすると、慣習をやめようという動きが起き始めます。まだ、全ての地域でなくなったわけではありませんが、廃止の流れは進んでいると思います。

男性も“伝統的な男らしさ”に苦しめられている

途上国で自由を縛る慣習と戦う少女たち

ケニアのニクソンさんと同じく、ジンバブエで生理用ナプキン作りの活動をする男子生徒/(c)プラン・ジャパン

――著書のなかで、途上国の男性たちもまた“伝統的な男らしさ”を要求されることに苦しめられているという記述がありました。

寺田聡子さん(以下、寺田):途上国の場合は男性が働き、女性は家事と子育てをするという明確な役割分担が存在することが多いです。そのため「男性は強くあらねばならない」という風土があり、ときに大きなプレッシャーとしてのしかかります。例えば、途上国では、若い男性が交通事故や暴力、自殺などにより命を落とすというケースもたくさんあります。男性らしさを大事にするあまり、危険な行為に走ったり、ストレスによって苦しんでいるというのが理由のひとつとして考えられています。

――そうしたことを受けて男性の意識改革に取り組んだり、また、一歩進んで女性をサポートしようという男性の動きもあるようですね。

寺田
:女性に対する暴力が多いルワンダでは、地元のNGOと協力して暴力意識改革トレーニングを行っています。男性優位社会だったルワンダにおいて、女性の仕事と考えられていた掃除を男の子に体験してもらうことで、伝統的な男女の役割を考え直し、男性が女性を支配するという意識を変えていこうとしています。

また、「女の子を学校に」という運動をしているケニアの16歳の少年ニクソンさんは、ナプキンがないため生理中に学校へ行きにくいという女の子の告白を聞いて、生理用ナプキンを作る活動をスタートさせました。彼は自分の母親が父親に殴られていたり、姉や妹が嫁いだ先で暴力を振るわれていたことを受けて、女の子も自立するために学校へ行くべきだと思って活動しています。

私たちはニクソンさんのような人たちを社会の変革者「エージェント・オブ・チェンジ」と呼んでいます。今までの社会のあり方に疑問を投げかける役割を担うため、周囲からの嫌がらせなどのリスクを負いますが、こうした人たちがいないと社会は変わらないと思います。

緩やかな性別分業はあったとしても、男性と女性が協力することでパワーも2倍、3倍になる。よりストレスなく、男女ともにできることをやっていこうという社会では、幸せも享受しやすいのではないでしょうか。

●プラン・ジャパン
国連に公認・登録されたプラン(本部・イギリス)の一員として、アジア・アフリカ・中南米の51か国で「教育」「子どもの保護」などに力を入れて、自立を支援。また2007年から行っている「Because I am a Girl」キャンペーンは女性であること、子どもであることの二重の差別ゆえに、困難に直面する世界の女の子の問題を訴え、彼女たちが生きていく力を身に付け、途上国の貧困が削減されることを目指している。

末吉陽子