家族が性犯罪者の加害者になる可能性

カウンセリングルームの様子

>>【前編はこちら】性犯罪者の9割は「やめたい」と思っている 精神科医が語る、加害者への治療が必要な理由

性犯罪被害者への診療から加害者に対する治療の必要性に気付いたという精神科医の福井裕輝さんは、性犯罪加害者は異常性欲の持ち主などではない「普通の人」も多く、加害者に対する誤解があることから治療への理解が深まらないことを懸念する。

加害者治療を刑務所で行えない理由

――加害者への治療ですが、治らない場合もあるのですか?

福井裕輝医師(以下、福井):治癒力に差はありますが、ホルモンを投与する場合は性欲自体を下げるので再犯は基本的に起こりません。性障害専門医療センター(SOMEC)(※福井さんが代表を務める)で治療を行った人の再犯率はかなり低いですね。私は暴力の中では性犯罪は非常に治療がしやすいと思っています。DVやストーカー行為の場合、お互いの関係性が絡み合っているので複雑で治療が難しいのですが、性犯罪は基本的には性欲を自分でいかにコントロールするのかということなのでシンプルです。

――先ほど、性犯罪加害者への誤解という言葉がありましたが、誤解があるからこそ治療への理解が進まない、ということはありますか?

福井
:そうですね。加害者を刑務所に入れて罰すればそれでいいかというと、決してそういうことではないんです。強姦を1件やったとしても、数年で仮釈放で出てきてしまう。3年や5年刑務所で過ごすことは、彼らにとってはなんの抑止力にもなりません。

法務省が社会内で適切に治療を行えればいいのですが、高い壁があります。「なんで国民の税金を加害者の治療に使うんだ」と思う人もいるでしょう。私も講演で話したり、政治家の方と意見交換をしたりしていますが、なかなか実現には至りません。政治家が「加害者治療を」と言っても、選挙では恐らく通らないからでしょうね。だから日本では加害者が治療を受けないまま放置され続けています。また、被害者団体から「被害者感情を考えろ」「被害者ケアが十分でないのに加害者へのカウンセリングを行うなんて」という声もあります。

――以前、幼いころから強制わいせつの被害に何度もあってきたという女性に取材したことがあります。彼女は自分があまりにも被害にあうので、加害者への講習を自分で企画したいと話していました。被害者の中にも加害者へのカウンセリングに理解のある人はいると思います。

福井
:それはそうですね。以前、性犯罪被害者支援団体と共同でシンポジウムを開きたいと思って問い合わせたのですが、ほとんど断られました。困ったなと思って、被害者本人である大藪順子さん(※)に連絡したら「それは素晴らしい試みですね」と協力していただけた、ということがあります。

※詳細は「レイプされたのはあなたのせいじゃない―被害に遭った女性ジャーナリストが、被害者を撮り続ける理由」へ。

「隔離すればいい」では性犯罪はなくならない

――加害者治療の他に、子どもに対して性教育を行うことが性犯罪抑止につながらないでしょうか?

福井:どうでしょうね……。R指定のものを見せないというのは、まあそういうことですよね。ただ性教育というのは性を直接扱って、子どもに教えることですよね。これは単純な議論ではいかない。たとえば、ネットが普及したことで「覗き」という性犯罪は激減したと言われています。わざわざリスクを冒さなくてもネットで見られるので。

ただ、一部にはネットでそういう映像を見たから「実際にやってみたい」と助長される人もいる。逆効果になる一群も必ず存在するのです。風俗も同じで、性犯罪抑止になっている一面もあるけれど、風俗で繰り返しているうちに性犯罪を犯したいという気持ちになる人もいる。これと同じで、子どもに性教育をしたら全員が真っ当に育つわけではなくて、一部には早期に教育することで逆効果となる人がいる、という可能性があります。

――ということは、防犯教育の方がやりやすいのでしょうか?

福井:私はそう思いますね。その意味でも加害者の実態を知ることは重要です。

私はよく、「性犯罪者との共生」という言葉を使います。性犯罪者を許すわけではもちろんありません。ただ、性犯罪者を「普通ではない人だから隔離してしまえばいい」という考え方では性犯罪者はいなくならないし、性犯罪を防げない。「すれ違う人が性犯罪者だという可能性は毎日ある」「そうではない人と見分けがつかない姿かたちで隣に性犯罪者が住んでいる」、男性も女性もそういう意識でいた方がいいですし、その方が加害者治療への理解も広がるのではないかと思います。

――たとえば家族に性嗜好障害の傾向があると気付いたとき、福井さんの元に相談する人もいると思いますが、できない人もいると思います。でも「アルコール依存と同じで性的嗜好障害に陥る可能性は誰にでもあるもので、治すことができる」という知識があれば、相談する人も増えるかもしれませんね。

福井:そうですね。表に出てきていない家庭内の性的虐待は数えきれないほどあると思います。これも性犯罪ですが、家庭内で闇に葬られている。また、セクシャルマイノリティーの人たちの被害も現状では放置されているので、これからの課題ですね。

見過ごされやすい女性加害者と男性被害者

――女性の性犯罪加害者からの相談もあるのでしょうか?

福井:多くはないですがあります。女性の場合は事件化することがほとんどないので、本人が「治療しよう」という意識になりづらいのではないかと思います。たとえば性犯罪加害者の中には、幼児期に性的な行為を受けたことがトラウマとなっている人もいて、その性的な行為が女性から受けたものである、ということはありますね。女の子が性的被害にあうと大事ですが、男の子の場合は笑われたり、「そのぐらい何でもない」とすまされてしまうこともあるのが問題です。

――性犯罪の被害を語ろうとする被害者は増えてきたかもしれませんが、再発防止の観点から自ら語る加害者はほとんどいません。被害実態を知ることと同時に加害者の実態を知ることが、性犯罪をなくすことにつながるかもしれないと思いました。ありがとうございました。

性障害専門医療センター(SOMEC)のHPでは、治療を希望する本人や家族に対してのFAQ(よくある質問)がまとめられている。治療にかかる金額は、初回相談は無料。その後のアセスメント(心理検査/約4時間)は2万円。その後の診療は、月々2万5,000円程度だという。※金額は税別
●福井裕輝(ふくい・ひろき) 1969年、アメリカ・インディアナ州生まれ。精神科医、医学博士。自身にADHD(注意欠如多動性障害)の傾向があったことから心理学、精神医学に興味を持ち、京都大学工学部を卒業後に同大医学部に入学。医療少年院や国立精神・神経センター(現・国立精神・神経医療研究センター)などに勤務し被害者、加害者両方と接する中で、日本ではほとんど行われていない加害者治療の必要に気付く。2010年に性障害専門医療センターを設立。現在、NPO法人性犯罪加害者の処遇制度を考える会代表理事、一般社団法人男女問題解決支援センター代表理事、性犯罪被害者支援に関する検討委員会(内閣府)で委員を務めるなど、精力的な活動を行っている。著書に『ストーカー病―歪んだ妄想の暴走は止まらない―』(光文社/2014年)。

小川 たまか/プレスラボ

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