性犯罪加害者への治療が必要な理由とは

『なかったこと』にされる性暴力 被害者支援団体の代表に聞く、レイプをめぐる社会の問題点」、「レイプは“いたずら”じゃない―自らの被害を映画にした女性監督が語る、罪の意識を持たない性犯罪者」など、ウートピではこれまで性犯罪被害者の目線から性犯罪の問題を考えてきた。レイプや強制わいせつなどの性犯罪は言うまでもなく被害者へのケアが必要だ。一方で、指摘されつつあるのが加害者へのカウンセリングや治療の必要性。性犯罪加害者には一定の常習性があると考えられ(※)、治療を行うことは犯罪の再発防止につながる。

被害者・加害者両方と接する中で加害者治療の必要に気付き、性障害専門医療センターを設立するなど活動を続けてきた福井裕輝医師に、加害者治療の必要性と、その内容・課題について聞いた。

(※)平成22年度版犯罪白書によれば、強姦の加害者で強制わいせつを含めた性犯罪の再犯率は16%、強制わいせつを含む性犯の前科を有する者では強制わいせつを含む性犯の再犯率は38%。これは強盗など他の再犯率と比べ高い再犯率ではないが、白書の中で「性犯罪を繰り返す者は、更に性犯罪の再犯に及ぶリスクがより大きいことがうかがわれる」と分析されている。また、無職だと再犯率が高くなる強盗と異なり、「就労状況が安定していることは、強姦の抑制要因としてはほとんど意味を持たないと考えられる」ともされる。

加害者を治さなければ被害者を救えない

――加害者治療の必要性に気付いた経緯を教えてください。

福井裕輝医師(以下、福井)
:著書である『ストーカー病』の中に詳しく書きましたが、一つには近親者から性的虐待を受けた患者を診療したことがきっかけです。解離性同一性障害(いわゆる多重人格障害)の患者は幼いころに虐待を受けていることが非常に多いです。被害者と加害者である親を引き離すことが重要ですが、たとえば加害者が逮捕されても即解決とはならない。加害者が抱えている病を治さなければ被害者は救えません。

――福井さんが行っている、性犯罪加害者、性嗜好障害のカウンセリングとはどのようなものか教えてください。

福井:カウンセリングがどのようなものかの前に、まず現在の国の問題点をお伝えしておきます。たとえば、性犯罪加害者が刑期を終えて刑務所から出所しますよね。それで本人が「もう再犯したくないから治療を受けたい」と言って一般の精神科を受診しても、「対象じゃない」と追い返されるのが今の日本なのです。性嗜好障害のカウンセリングは治療として認められておらず、保険も使えません。この現状はまだあまり知られていませんね。私がNPO法人性犯罪加害者の処遇を考える会、そして性障害専門医療センター(SOMEC)を起ち上げたのは、「もうやりたくないけれど自分ではどうにもできない」という人たちの受け入れ口をつくるべきだと思ったからです。

治療については薬物療法と精神療法的なアプローチ(認知行動療法)があります。薬物療法にも大きく分けると2種類あって、ひとつはSSRIという薬。もともとは抗うつ薬です。たとえば痴漢の常習者だとすると、常時痴漢をしたいという考えから抜け出せない「固着」という傾向があるのですが、それを和らげる役割があります。攻撃性を下げる役割もある。薬物療法のもうひとつは、男性ホルモンを抑制する薬です。これはもう性欲自体が減退するので再犯はぴたっと止まります。治療の方法としては本人の同意に基づいてホルモンを投与し、並行して認知行動療法と呼ばれるカウンセリングを行うことが多いですね。

――認知行動療法はどのようなものなのでしょうか?

福井:「性犯罪加害者には認知のゆがみみたいなものがあって、それを取り除けば普通に戻る」というイメージを持たれることが多いのですが、それとはだいぶ違います。たとえれば、筋トレに近いですね。筋トレは余分な脂肪などを取り除き、鍛えるべき筋肉を鍛えますが、治療では健常な精神に近づくために実践的な行動を促します。ストレスや怒りが引き金となっている人であれば、ストレスに対する対処法を考えたり、怒りをコントロールするための方法を考えたり。

さらにいえば、盗撮をしてしまう人であれば、自分でスマホのカメラにガムテープを貼るというのも立派な治療行為なのです。カメラ機能を壊してしまうというのもそうです。ほかには、「ネットで児童ポルノを見てから夕方子どもが帰ってくるような時間になるまで待って自転車で徘徊して子どもを探す」というような行動パターンを持っている人の場合は、まず児童ポルノを見ることを断ち切るとか。自分で自分を止められる歯止めとなる行動を身につけるというイメージですね。

性犯罪加害者は「一見、普通の人」が多い

――性犯罪加害者と間近で対峙してカウンセリングを行う、というのは怖くないのでしょうか?

福井:たぶん勘違いされていますが、性犯罪加害者だからといって粗暴なタイプばかりではない。むしろ見た目は普通ですし、妻も子どももいる人も多いです。もちろん集団強姦を繰り返す人のように、なんの反省もなく次々やっているようなタイプも一部にはいますが、大多数はそうではないですね。

――福井さんの元を訪れる人は自分から治療に訪れる人です。そういった人は性犯罪加害者の中でもかなり「まともな部類」なのでしょうか?

福井:いや、それは性犯罪加害者に対する世の中の誤解があると思います。あくまで私の感覚ですが、加害者の9割は「やめたい」と思っています。覚せい剤でもアルコール依存でも最初のきっかけは些細なことだったりしますが、性犯罪も同じです。

――異常な人だけが性犯罪加害者になるわけではなく、誰でも何かのきっかけでそうなる可能性はあるということですか?

福井:はい。最初は些細なことがきっかけで、徐々にエスカレートしていくパターンも多い。たとえば、自転車に乗っていたら、すれちがった人にたまたまぶつかって相手の上に倒れこんでしまったと。そのときは謝って終わったけれど、ふと「こうすれば偶然を装って触れるんじゃないか?」という考えが浮かんで何件も繰り返すようになり、繰り返すうちに行為がエスカレートするとか。ふとしたことから始まってやめられなくなるというパターンですね。これはひとつの例ですが、異常な思考の持ち主だけが性犯罪者になるという認識は完全に間違いです。

>>【後編に続く…】性犯罪者を刑務所に入れても解決しない 精神科医が語る、私たちが加害者の実態を知るべき理由

●福井裕輝(ふくい・ひろき) 1969年、アメリカ・インディアナ州生まれ。精神科医、医学博士。自身にADHD(注意欠如多動性障害)の傾向があったことから心理学、精神医学に興味を持ち、京都大学工学部を卒業後に同大医学部に入学。医療少年院や国立精神・神経センター(現・国立精神・神経医療研究センター)などに勤務し被害者、加害者両方と接する中で、日本ではほとんど行われていない加害者治療の必要に気付く。2010年に性障害専門医療センターを設立。現在、NPO法人性犯罪加害者の処遇制度を考える会代表理事、一般社団法人男女問題解決支援センター代表理事、性犯罪被害者支援に関する検討委員会(内閣府)で委員を務めるなど、精力的な活動を行っている。著書に『ストーカー病―歪んだ妄想の暴走は止まらない―』(光文社/2014年)。

小川 たまか/プレスラボ

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