育児疲れの母親に周囲が援助できること

>>【前編はこちら】「ひとり親」だから事件が起こるわけじゃない―教育カウンセラーが語る、子どもを守れない日本
前編では、『ひとり親の子育て』(WAVE出版)を上梓された明治大学教授の諸富祥彦さんに、ひとり親の現状を伺った。後編では、周囲にいる人が手を差し伸べること、ひとり親が周囲に援助を求めることについてフォーカスする。

    ひとりで苦しむシングルマザーに対し、周囲ができることとは?

――私の周りにも実質シングルのお母さんがいて、いつも「もうヘトヘト」と言っているんです。吐き出すことでスッキリできているのかもしれないし、本当に苦しんでいるのかもしれない。助けを求められるまで待つべきか、こちらから積極的に関わっていくべきか、ご家庭の事情には踏み込みにくいところもあり、そういったときにはどう接したらいいのでしょうか?

諸富祥彦さん(以下、諸富):その方はきっと本当にヘトヘトなんだと思います。仕事、育児、家事しかない毎日ではやはり疲れますよ。そういう場合は、まずお茶に誘ったり、ランチをしたりして、一緒に過ごす時間を増やしていくといいと思います。

日本は遠慮するのが基本なので、いきなり「助けるよ!」と核心に迫られてもきっと遠慮しますよね。しっかり関係を作ってから、「出かけるんだけど、よければお子さんも一緒に連れて行くよ」と提案してみるといいんじゃないでしょうか。月曜は誰、火曜は誰、と気楽に「ちょっと見てあげようか」と言える関係を作れるといいですよね。

    援助を求めることは恥ずかしいことではない

――今回、本書で「援助希求力(えんじょききゅうりょく)」をテーマに一章設けられたのは、そういう声が多かったからなのでしょうか?

諸富:そうですね。川崎の事件にしても、援助希求がされていたら救えたかもしれませんし。いじめの場合も同じです。親御さんは、援助希求をするのは恥ずかしいことではなく、「子どものためにできることをやっているんだ」というプライドの持ち方をしてほしい。親が我慢を重ね、追い詰められたりイライラしたりすることで、結果的に辛い思いをするのは子どもです。日本の親御さんは本当によくやっていますが、援助を求めてもいいんです。

本来であれば、行政が個別にサポートしてくれたらいいのですが、今はこちらから探さないと見つからない状況です。たとえば親御さん向けに、「困っていることがあれば○をつけてください」というアンケートを実施し、反応があれば「こういったサービスがあります」と紹介するくらいの手厚い支援をしていかないと。「ひとりひとりががんばって援助希求しなくては」という時点でおかしいんですよ。

残念ながらこういう現状があるので、『ひとり親の子育て』には援助希求する能力を身に付けましょう、と書きました。でも本当は、遠慮がちな人にも届く、垣根の低い世の中を作るべきです。

それから、自尊感情という言葉がありますが、自分に自信がある人の方が他人を頼れるのに対し、プライドが低く自信がない人は頼れないんです。他人に頼ると、自分がさらにダメな親のような気がしてしまう。

また、日本には、我慢することが美徳という考え方がありますよね。しかし、それで子どもにしわ寄せがいってしまうのは、やはり違うと思います。もっと大きな声を出して助けを求めていいんですよ。

    泣かない「解離性障害」の子どもが増えている

――公共の場で子どもが騒いだり泣いたりすることへの議論が、たびたび起こることについてはいかがですか?

諸富:子どもが泣くのは当たり前ですよ。そこを思い出してほしいですね。生活の中で、自分の思い通りになることが増えて狭量になっている人が増えているのかもしれません。

それから、最近、問題になっているのが「泣かない」子どもです。「解離性障害」といって、いじめられている子だけでなくいじめている子も発症しやすいのですが、自分の気持ちを出せない、自分の気持ちがわからない、表情が乏しい、そういう子どもが増えています。小さい頃、泣くのを許されない環境で育ったために我慢するのが当たり前になり、辛いときに泣けない。臨床心理学の分野で、今、大きなテーマとなっています。

――「泣かなくてえらかったね」とつい言ってしまいがちですよね。

諸富:泣かないのがえらいのではなくてむしろ、「よく泣けたね」と声をかけてほしいですね。我慢することをやめないと、より子育てしにくい社会になってしまう。

    子どもの感情を取り戻すために親ができること

――解離性障害は、成長に従ってどうなっていくのでしょうか?

諸富:プレイセラピーなど感情を出す訓練で長い時間をかけて治療していき、自らSOSを出せるようになれば治りますが、自分で自分の気持ちがわからなくなって、より深刻な状態になる子もいます。

――感情は人間にとって原始的なもののような気がしますが、それでも一度失ってしまうと、時間をかけないと取り戻せないんですね。

諸富:母親が安定感を持って接する、スキンシップをする、愛していると伝える、そういったことで取り返しがつくこともあります。誰でも、子育てに失敗はつきものです。あのとき失敗したから、あのとき離婚したから、といちいち思い返したくなるかもしれませんが、むしろその後の子育てが重要なんです。

子どもは可塑性が高い。大人のカウンセリングでは治療に10年かかるケースでも、子どもの場合は1年で治ることもあります。いい環境を与えられさえすれば修復力が高いので、失敗したことを悔いる時間があったら、今、いい子育てをした方がいいですね。

(美浜南)

●諸富祥彦 1963年福岡県生まれ。明治大学文学部教授。教育カウンセラー。教育学博士。「すべての子どもはこの世に生まれてきた意味がある」というメッセージをベースに、30年近く、さまざまな子育ての悩みを抱える親に、具体的な解決法をアドバイスしている。
この記事を読んだ人は答えてね!
人が回答しています