ベビーカー論争から始める議論

>>【前編はこちら】デパートに乳幼児連れは迷惑か? ベビーカー問題で炎上したライターが語る「子連れマナー」

新幹線で泣く子どもに「舌打ちくらいいいじゃない」?

小川たまか(以下、小川):ちょうど1年ほど前、新幹線で泣く子どもについて堀江貴文さんとNPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんのツイッター上のやり取りが話題になりました。子どもの泣き声に舌打ちした女性を見たという駒崎さんが「当事者意識と寛容」が必要と言ったのに対し、堀江さんが「舌打ちくらいいいじゃないかと思ったりする」と。(参考:【炎上】ホリエモン、新幹線で泣く子供に対し「舌打ちもしょうがない」「睡眠薬飲ませればいい」と発言

大宮冬洋さん(以下、大宮):たとえ子どもの泣き声に腹が立ったとしても、舌打ちでは何も解決しないですよね。たとえば僕は以前、電車内で大音量を出してゲーム機で遊んでいた子どもに「ちょっと音量下げてくれる?」って言ったことがあります。そうしたら横にいたお母さんが「すみません」と謝ってきた。子どもの泣き声は不可抗力なのでゲーム機の話とは別ですが、誰かのマナーが気になったら、舌打ちするとか迷惑そうな顔をするとかいうわかりづらいアピールじゃなくて、はっきり言えばいいと思うんですよね。

小川:確かに、わかりづらいアピールだと謝る方も謝るタイミングをつかみづらいです。

大宮:先日の話ですが、友人の女性がデパートでベビーカーに足を踏まれたそうなんです。卸し立ての靴を踏まれて、相手のお母さんも踏んだと明らかに気づいていたのに無視して通り過ぎようとしたと。それで彼女は「踏みましたよ」って言ったんだそうです。そうしたら相手のお母さんが「あっ、すみませんでした」と言った。彼女は怒っていたけれど、それでも謝られたことで一応腹の虫も収まった。

でも、なかなかその場で注意できないことって多いですよね。直接言うのは気まずいし、怖いし、とっさにもごもごしちゃうから言えない。それで言えなかった分、怒りを溜めて後からネットに書き込んだりする。

違和感があるなら議論してみたらいい

小川:その場で謝っておしまいにできればいいですよね。「すみません」の一言を聞けないから、ものすごく悪い人に思えてしまう。

大宮:ちょっと極端な例ですが、僕の知り合いの男性で「電車内でケータイを使ってはいけないというのは勝手なルールだ」と言っている人がいるんですね。優先席から離れて小声で気を付けて喋れば誰の迷惑にもならないはずだと。電車内で人と話すことは禁じられていないんだから。

だから彼は電車内でケータイを使うんだけど、たまにオジサンに舌打ちされたり怒られたりする。そうすると彼は議論を始めるんです。「なぜ悪いのですか?」って。僕も電車内でケータイを使われるのは嫌な方なんだけど、そう言われてみると、ケータイを使っている人より隣でいちゃついているカップルの方がうるさいなとか。

小川:大声でない限り、ケータイでの通話よりも気になるマナーというのはありますね。

大宮:だから違和感があるならその場で言えばいいし、議論してみたらいい。でも、相手は知らない人だから丁寧な言い方で言わないといけないですよね。そこで荒い言葉遣いをすると殴り合いのけんかになってしまう。

小川:日本人は議論が下手だって言われますもんね。あと、子どものいる人といない人の断絶の話に戻ると、立場が変わると見えているものが変わるんだと思います。どうしても自分と同じ属性の人の方が目に入りやすいから、子どものいない人は普段あまり子連れが目に入っていない。マナーの悪い子連れだけが目についてしまう、というようなこともあるのではないかな……と。

大宮:なるほど。そう考えたことはなかったです。

幸福度ランキング第1位の福井県は三世代同居が当たり前?

大宮:話が少しずれますが、ビジネス誌の取材で福井県へ取材に行ったことがあるんです。福井県は都道府県幸福度ランキングで第1位(2014年)。訪問してみたら三世代同居の家が多かった。家父長制が強くて子どもたちは祖父母や両親をちゃんと敬っている。

おじいさんやおばあさんがいずれ死ぬということをどこかで感じていて、家族の死を「順番でやってくるもの」として自然に受け入れている。親子間の反発の間に祖父母が緩衝材として入っていたり。面倒くさいこともあるんだろうけれど、三世代同居って結構いいものなんだなと思いました。自然と年上を立てたり大事にすることができるようになる、という一面があると思います。

小川:お嫁さんが苦労していたり……ということはないのでしょうか(笑)。

大宮:それがお嫁さんの家に同居しているという場合もあって。一緒に住むのが当たり前という地域なので。僕が今暮らしている愛知県も結構そうです。東京の場合、いつまでも親元にいると独立心がないって思われたりするけれど、そういう空気がない。1回家を出ても戻ってきて親の面倒を見たり、逆に子どもの面倒を祖父母が見てくれたり。問題をつなげると怒られそうだけど、子育て世代が地方にも分散すれば、ベビーカー問題みたいなことも起こりづらいんじゃないかと思います。

すれ違いを前提にスタートする

小川:古き良き日本、みたいな感じでしょうか。お話を聞いて思ったのですが、私は子どものいる家庭に取材することが多くて、共働き家庭や都会での子育ての大変さをよく聞くんです。だからベビーカーをひいたお母さんを見ると、誤解を恐れずに言えば「弱者」だと感じます。

一方で大宮さんは、どちらかというと「子どもや親子連れは弱者ではない」という意識が強いのかなと思いました。どちらが正しいという話ではなくて、まずは前提の違いがあることを共有して、なぜ相手がそう考えるのかを知ることが大事かなと思うので、大宮さんが愛知県や福井県で感じたお話などを聞いて興味深かったです。

大宮
:そうですね。ベビーカーの記事を書いていろんなコメントが来ました。もっともだと思う意見もあったんですが、ものすごい人格否定みたいなコメントも多くて人生初のストレス性のイボ痔になりました(笑)。

小川:意見が違う相手を黙らせようとするのではなく、「もしかしたら分かり合える部分もあるかも」と考えてみることも大事なんでしょうね。私も全然できないので、難しいですが(笑)。ありがとうございました。

●大宮冬洋(おおみや・とうよう) 1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て2002年からフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)など。現在、愛知県在住。東京には仕事でほぼ毎週3日ほど滞在。実験くんの食生活ブログ

小川 たまか/プレスラボ

この記事を読んだ人は答えてね!
人が回答しています