自らの性犯罪被害を映画にした女性監督

水井真希監督

テレビや新聞、ネットなどを開くと、必ずどこかに性犯罪のニュースを見かける。それほど私たちの身近にある性犯罪。2015年3月7日から渋谷アップリンクにて劇場公開される映画『ら』は、実際に起こった連続少女暴行拉致事件を元にしており、監督自身もその事件の被害者である。この作品が監督デビュー作となる水井真希監督に、性犯罪の実態について語ってもらった。

性犯罪被害者は「ワンストップセンター」を利用してほしい

――性犯罪被害者は、事件のことを思い出してしまうので語らない、という女性もいますが、なぜ水井監督は映画という形にしようと思ったのでしょうか?

水井真希監督(以下、水井):よく、思い出したくないから話したくないという子もいますが、私はわりと、その日あったことや言いたいことを全部口に出して発散したいタイプなんですよ。

今回の映画を作るにあたって、プロデューサーを務めていただいたのが、西村喜廣さんという映画監督で、昔、私は彼のもとで働いていました。当時、西村さんにも「実は以前、性犯罪にあって、今日はその裁判に行くので仕事を休ませていただきます」と、普通に言っていました。だから、別に秘密にしていたわけではないんです。

――水井さんの場合はきちんと犯人が捕まって裁判までいったのですね。しかし、性犯罪被害にあっても警察に届けない人も多いそうですよね。映画の中の主人公も、一度は警察に電話しますが、途中であきらめてしまっていましたし。

水井:そうですね。私は事件があった翌日に110番に電話をしたんですが、「今どこですか?」と聞かれたので、今いる場所を答えたら、「だったら最寄りの警察署に電話してください」と言われました。

映画の中では、この段階で主人公は警察に届けるのをあきらめているのですが、私はあきらめずに最寄りの警察署に電話したんです。すると、事件の発生場所がそこならば、事件があった市の警察署に電話してくださいと言われました。自分で調べましたよ、事件があった市の警察署の電話番号を。

そこへ電話して、また事件のことを事細かく話したら、「それじゃあ、刑事課ですね」と言われ、刑事課へ回されて、そこでも事件のことを話し……。そこまで1人で行動したのに「親御さんと相談してから来てくれますか?」と言われて電話を切られました。とりあえず親に話して、結局、もう一度警察に行ったのは事件から3か月後だったんです。

――そんなに段階を踏まなければならないのですね。それはあきらめてしまう被害者もいますよね。

水井:はい。警察には被害者がもっとスムーズに届け出できるようにしてもらいたいですね。でも、今は「ワンストップセンター」という性犯罪被害者のための支援センターがあるんです。NPO団体であったり、任意的な団体であったりするんですが、そこに電話すると概要を聞いてくれて、必要だったら警察へ通報したり、病院や弁護士さんを紹介してくれたりするんです。

自分で警察に届けると、同じ話を4回も5回もしなければいけないことも、その回数を極力減らしていけるよう支援してくれるんです。ネットで「ワンストップセンター」で検索すると出てきます。全部の都道府県にあるわけではありませんが、被害にあった人はそういう支援センターをぜひ利用してほしいです。

「痴漢」「いたずら」など、言葉の言い回しが性犯罪への意識を低くしている

自らの性犯罪被害を映画にした女性監督

©NISHI-ZO 西村映造


――なぜ、性犯罪がなくならないと思いますか?

水井:それは、性犯罪者がいるからですよね。

――ではなぜ、彼らは性犯罪に走ってしまうのだと思いますか?

水井:加害者が、性犯罪が犯罪であることを知らないのだと思います。テレビのニュースだって強制猥褻罪のことを「痴漢」とか、未成年者へのレイプを「いたずら」と表現することもあるじゃないですか。その言い回しが、性犯罪への意識を低くさせているんです。

例えば、猫を殺した場合は「器物損壊罪」になりますが、人間を殺すと「殺人罪」に問われます。つまり、猫を殺す方が罪度が低いという認識になります。そして、男性を殴ると「傷害罪」という罪に問われますが、女性に対して性的な暴行をするのは罪が軽いと思っているんです。男=人間、女=人間以下と思っている人が多いと私は思います。

――性犯罪に関する男女の認識の違いはどこで生まれているのだと思いますか?

水井:いじめの問題と同じなんですけど、いじめられている側は、「物を隠されたり机の上にゴミを置かれたり、なんで私がこんな目にあわなきゃいけないの?」と思いますよね。被害者的にはものすごいダメージです。でも、いじめている側からすると「ちょっと遊んだだけじゃん」という意識です。

性犯罪もそれと同じで、女性からすると、いきなり胸を触られて「何!? 意味が分からないし痛いんですけど!」となりますが、加害者側からすると「おっぱいくらい触らせてくれたっていいじゃん」という意識なんですよね。

性教育を充実させれば望まない妊娠や中絶、性犯罪が減るはず

――加害者に自分のやっていることは性犯罪なのだと気付かせるにはどうすればいいのでしょうか?

水井:私、もっと性教育を充実させるべきだと思うんです。世間一般では、性教育推進派と、教えない方がいい派とに分かれています。教えない方がいい派は、性行為とは何ぞやというものを知ったらよけい性が乱れる心配をしているようです。しかし、性教育を完璧にしたら、望まない妊娠や中絶、性犯罪そのものが減ったというデータがアメリカでは実際に出ているんです。それなのに、なぜ日本の上の人たちは性教育を充実させないのか、不思議でたまりません。

小学生の頃は、女性の生理というのはこういうものですよ、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるわけではありませんよ、ということを教え、中学生になったら避妊具についても教えていいと思います。中学生でも性行為をする子たちはいますし。

――知識がないから、性に関する間違った情報を植え付けられて被害者が増えるのかもしれませんね。水井監督がこの映画で一番伝えたいことは何ですか?

水井:とにかく「性犯罪はダメ!」ってことです。そして、物語の中のセリフでもあるのですが、被害者に対しては「あなたは何も悪くない」という、その2点ですね。

加害者の意識が変わらない限り、性犯罪はなくならない。水井監督の思いが詰め込まれた作品である『ら』。思わず目をそらしたくなるような残酷なシーンもあるが、ぜひ男性も女性もこの映画を観て、性犯罪が起こっている事実と向き合ってほしい。


2015年3月7日(土)アップリンク他全国ロードショー

●水井真希
十代で園子温に師事し、西村喜廣の下で映像制作を学ぶ。映画「奇妙なサーカス」「片腕マシンガール」などに現場スタッフとして携わる。経験を生かし、幽霊役で映画初出演。グラビアや役者活動に軸を移す。主演映画「終わらない青」「イチジクコバチ」「マリア狂騒曲」。本作で監督デビュー。

姫野ケイ

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