産婦人科医・宋美玄が近藤誠の著書に反論

ちまたに蔓延するニセ医療、ニセ健康法、ニセ美容法……これらに「待った!」をかける書籍が、昨年からにわかに増えています。『女のカラダ、悩みの9割は眉唾』(宋美玄著、講談社)、『「ニセ医学」に騙されないために―危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!』(NATROM著、メタモル出版)などがそれにあたり、情報過多の波に翻弄され、おぼれかかっている私たちのために、つかまるべき丸太を投げ入れてくれています。

    医師・近藤誠氏の説は「がんは切らないで放っておけば自然に治る」

そんな中、今冬発売された『もう、だまされない! 近藤誠の「女性の医学」』(近藤誠著、集英社)が話題になっています。著者の近藤氏は慶應義塾大学医学部において、がんの放射線治療に長らく携わってきた医師。

本書では、

・子宮頸がん検診でがんを早期発見、早期治療することが不妊につながる
・それゆえ、検査も治療も受けないほうがよい
・放っておけば自然に治る(放置療法)
・乳がんのマンモグラフィ検査も受けないほうがよい
・なぜなら、切らなくてもいいがんまで手術で乳房ごと切り取られるから
・それはひとえに、医者が手術をしたいがゆえ。そうしないと医師は仕事がなくなってしまう …………etc.

こうして「医療の常識をくつがえす」説が次から次へとくり出されます。自分がこれまで知っていたのとは正反対の事実を突きつけられると足元をすくわれたような気になり、「いままで信じていたのは何だったの!?」と衝撃を受ける内容になっています。しかし、これに対し、産婦人科医の宋美玄氏は異論を唱えています。そこで、本書の何が問題なのか、宋氏にお話を伺いました。

    子宮頸がんを放置すれば命に関わってくる

――近藤氏は2012年の『医者に殺されない47の心得』(アスコム)がベストセラーになり、患者のことを何も考えていない医療からいかに自分の身を守るかということを声高に発信しつづけています。宋先生は本書をどう読まれましたか?

宋美玄さん(以下、宋):『医者に殺されない~』から近藤氏の説は変わらないので、私も含めた医者の反応は「またか」といったところです。今回は女性の病気に焦点をあてていますが、がんの放置をすすめるなど内容は既刊本とほとんど変わりません。ただ、今回は子宮頸がんに対する主張に明らかな誤りがあるため、看過できませんでした。

――先ほどあげた「子宮頸がんは放置していい」という独自見解のほかに、子宮頸がんの前段階である「異形成」が見つかり、なおかつ子宮体がんも見つかっているのに、そこから8年以上放置治療している女性の例も紹介されています。

:子宮頸がんは、20~30代の若い世代に急増しているがんですが、予防できるものであり、早期発見して早期治療できれば、最悪の事態はまぬがれ得る病気です。それを放置していいと勧めるのは、たいへん罪深いことです。子宮や卵巣の摘出にとどまらず、命に関わってきますから。

私の周囲の産婦人科医は口をそろえて「近藤氏は子宮頸がんで苦しみながら亡くなっていく患者さんを診たことがないんだろうか」と嘆いています。おそらく今後も診ることないでしょうし、その主張を信じて放置した女性がどのような最期を迎えても責任を取ることはないのでしょう。それなのにこうした発言をする思考回路は、私たちには理解できません。

    近藤氏の発言に怒っている医師は数えきれないほどいます

――近藤氏はいろいろな文献を提示しながら、「放置」を主張していますが……。

:海外の論文のなかから、自分に都合のいい論文や、すでにそれを否定する新たなデータが出ている論文をピックアップして引用している、と指摘されています。私たちにとっては根拠がないに等しくても、「えらい先生がいっているから」と洗脳される人は一定数いますよね。いったんそうなると、ほかの医師が懇切丁寧に説明しても聞く耳を持ってもらえません。

病気になった人が洗脳されているのも困りますが、本人は治療したがっているのに、配偶者や家族が放置を希望するため治療を受けられない、という事態も起きています。近藤氏の発言に怒っている医師は数えきれないほどいます。

――治療法だけでなく、氏は医療界そのものも批判しています。曰く、放置しておけば治る子宮を摘出するのは、ただ切るのが好きだからとか、子宮頸がんを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンは厚労省と医学会が私腹を肥やすためのものだとか……。

:どんな職業でも不心得な人が一部いるものですが、医師の世界も同業者として首をひねってしまう倫理観の持ち主や技術不足の医師がいるにはいます。でも、それをもって医者全体を「モンスター集団」とするのは飛躍にもほどがあり、見識が低いとしか思えません。癒着も同じく、医療界にかぎらず「まったくない」と断言できるところはほとんどないでしょう。ただ、自分がお金で動く人は、他人のこともお金だけで動いているように見える、ということだと思います。

    耳ざわりのいい情報ほどソースを確認する習慣をつけて

――私たちがこうした「トンデモ医療本」にまどわされないようにするには、どうすればいいでしょうか?

:まずは基本的な身体の知識を持っていただきたいですね。難しいことはいいません、高校生物のレベルがあれば大丈夫でしょう。そして、耳ざわりのいい情報ほどソースを確認する習慣をつけてください。雑誌やネットの記事でも、これはどういう人が書いているんだろう? そしてその人は、どんな記事をこれまで書いているんだろう? と立ち止まって考えてみましょう。

身体に関しては、医師の洗脳があったとしても、最終的には自己責任になってしまうので、自分のためにそれを実践してほしいですね。女性たちよ、近藤本をはじめとする医療否定本の餌食になるな! と力をこめていいたいです。

三浦ゆえ

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