ネット叩きは薬物中毒と同じ

左:心理学者・澤田匡人さん、右:脳科学者・中野信子さん

前編では、SNS疲れの根源にはやはり「妬み」があることがわかりました。ではなぜ、私たちはつい他人を妬んでしまうのでしょう。後編ではその理由と対処法を、引き続き『正しい恨みの晴らし方』(ポプラ新書)を刊行した脳科学者の中野信子先生、心理学者の澤田匡人先生にお伺いしました。

>>【前編はこちら】友達のフェイスブックにイライラするのはなぜ? 脳科学者と心理学者が解説する「嫉妬」と「妬み」の正体

    いつまでも同級生と自分を比較してしまうSNS

――まず、SNSをやると疲れてしまう原因とは?

中野信子さん(以下、中野):SNSには、自分と同じ性別で、似たような年齢、境遇にある人がたくさんいるので、比較しやすいんです。「もしかしたら、私だってあんなイケメンと結婚できたかも」「出産しなければ、あの子みたいに出世できたかも」などなど、「もし◯◯だったら」という選択肢を毎日目の当たりにさせられて、一瞬一瞬を比較している状態に陥っているんですね。そりゃあ疲れますよ。

澤田匡人さん(以下、澤田):でも、人と比較すること自体は悪いことではありません。たとえば小学生の頃、友達と点数を比べた経験があると思います。「俺はこいつよりはできるけど、こいつよりはできないな」など。「比較」は、自分のアイデンティティや自分の基準を作っていく上で、大事なプロセスなんです。ですが、SNSで他人と比較してしまう人は、大人になるにつれ「自分の価値観」を中心にしなきゃいけないところを、ずっと他人の基準で考えているのではないでしょうか。

中野:そうそう、基準が自分ではないんですよね。他人の評価である「いいね!」の数によって、自分を評価してしまったり。

――だから他人の投稿との比較をせずにはいられなかったり、「いいね!」がつかないと落ち込むんですね。では、基準を自分にするにはどうすればよいのでしょうか?

中野:これは妬み、嫉妬、恨みの相手に対しても同じことが言えるんですけど、その場合も価値の基準が相手側にあるんです。自分の満足度じゃないんですね。だから、たとえ相手が失脚したり不幸になったり、仕返しをしても、自分の気分は一向に晴れないんです。そこで「メタ認知」の登場です。

    「メタ認知」で本当の自分と対話してみる

――メタ認知?

中野:簡単に言うと「自分を俯瞰で見る」という意味です。「私はどうすれば満足なのか」と、俯瞰から自分に問いかける。そうやって、相手側にあった基準を、一旦自分側に持ってくるんです。「私はお金を儲けたいのか? うん、本当はお金大好き!」「グルメ写真ばかり投稿しているけど、本当は作る方が好きなんじゃない?」など、自分に丁寧に聞いてあげましょう。そもそも、自分が何をしたら満足かと考える機会すら少なかったと思います。まず、それを意識することがメタ認知の第一歩ですね。

――なるほど! 自分に満足していれば、他人の評価など気にしなくてすみそうです。

中野:自分の満足が分かれば、その後自分の基準から外れて他人の投稿にもやもやしたときに、「あ、いま私、この人のことを妬んでいるんだな」と客観的に感じやすくなるので、自分の基準へ軌道修正しやすくなります。つまり、妬み感情を、コントロールしやすくなるのです。

――コントロールできると同時に、妬み=手に入れたいもの、と自覚できるんですね。

中野:そうそう。「自分にこういうところが足りないから、妬むんだな」と分析できて、その能力を身につけようと思うもよし、苦手分野ならば潔くスルーするもよし。するといままでマウンティングし合っていた友達から、「このマンション6,000万円だって。安いよね~?」なんて言われても、以前は張り合っていたところを、「いやいや、普通に高いし!」と恥じらいなく言えるようになります。そう言える自分をつくりましょう。それが、「優雅な恨みの晴らし方」です。

    読書やRPGゲームで「メタ認知」を育てる

――「メタ認知」を身に付けることって、難しそうですが……。

中野:妬み相手が失敗するのは嬉しいですが、「でも、実際に失敗したら可哀想だよね……」という気持ちは、自分の基準で考えられると思うんですよ。だから、そう考えられる人を友達にして、一緒にいることですかね。

――そういう友達がいない場合はどうしましょう?

中野:読書がオススメです。「恨みを晴らしたけど、でも虚しいよね」や、「恨んでいるけど、幸せになってほしい」といった内容の小説や漫画、映画など。もちろん本書でも(笑)。そういうものを摂取して、頭に栄養を与えてあげるんです。

澤田:ゲームでもいいですよね。想像力が鍛えられます。

中野:ゲームは素晴らしいですよ。知識を伸ばすという研究結果もありますね。謎解き系やRPGはいいですね。落ち物系は、ちょっとアレですけど……(笑)。

澤田:RPGも、すぐに攻略法を見るようならば残念ですね。そこで想像力が止まって、もはや作業になってしまう。

    ネット叩きは覚せい剤。中毒は中毒で制す

――妬みや嫉妬感情に苦しんでいる人の対処法は分かりました! でも中には、楽しんで妬んでいる人もいますよね。たとえば、やしきたかじんさんの後妻・さくら夫人を妬んでネット上で叩いている人って、目をキラキラさせているイメージです。

中野:はい、脳ってそういう風にできていますから。「私は、悪いあいつを叩く正義の味方だ」と認知する部分が、「内側前頭前野」という場所に備わっているんです。すると、「私、正義の味方!」と思うことで、ドクドクとドーパミンが出るんです。会社や家で嫌なことがあっても、さくら夫人を叩くことで、一瞬で爽快感が得られてストレス解消。もはや、覚醒剤を摂取したときと同じようなことが、脳内で起きているんです。

――もし友達がそうなってしまったら、どうすれば止めさせられますか?

中野:無理ですね、中毒しているから。その対象がいなくなっても、また次の対象を探すと思います。これには毒を持って毒を制すというか、洗脳し直すしかないです。たとえば、もっと中毒しそうなことや、ギャンブル性の高いものがいいですね。恋愛やスポーツ、ゲームとか。ドーパミンが出そうなもの。

――ネトゲでもいいんでしょうか?

中野:いいですよ! 株もいいですね、経済の仕組みも学べて有益です。とにかく、わかりやすい強烈な刺激を与えるんです、新しいスイーツ、ホテル、エステの新しい施術。自分のファッションやヘアスタイルを変えるのも効果的です。

    妬まれたら「優雅な生活」が最高の復讐

――おふたりも、さぞ妬みの対象になったのでは?

澤田:あります。この本を出した瞬間に、ね……。いちいち反応していると身が持たないので、「イチ妬まれポイントゲット!」なんて感覚でいますよ。中野さんはもっとあるでしょう。

中野:色々シャレにならないこともありました(笑)。それに対抗するには、いちいち相手にすることではありません。もっとテレビに出て本を売ること。優雅な生活が最高の復讐です。そのためには、自分がどうすれば満足かを知ることが大切。それを常に心がけるようにしています。

有山千春

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