性犯罪被害者への理解を広める女性写真家

ダニエル・ロドリゲス(カルフォルニア州ロサンゼルス市)/5歳の時の写真を手に取り、当時父親から売春婦のような格好をさせられて性虐待を受けた事を語ってくれた。隣に写っているのは、同じ5歳の従姉妹。従姉妹は無邪気な5歳児に見えるが、5歳のダニエルはすでに無邪気さを失ったかのように見える。児童への性虐待は、被害者から子どもらしさを奪う(撮影=大藪順子)

日本の強姦の認知件数は1,410件、強制わいせつは7,672件(犯罪統計資料/2013年)。特に強制わいせつについてはわかっているだけでも放火(1,090件)や強盗(3,328件)といった他の凶悪事件よりも多くの事件が起こっている。被害の多さに比べ、被害者の拠りどころとなるようなケアや理解はまだ足りない。

性犯罪被害者への理解を広めるために被害者自らが書いた書籍は、『性犯罪被害にあうということ』(小林美佳/朝日文庫)とその続編、そして『STAND-立ち上がる選択』(大藪順子/いのちのことば社)がある。『STAND』を書いたフォトジャーナリストの大藪さんは、1999年にアメリカで裏口を壊して侵入してきた見知らぬ男から被害に遭い、その後性犯罪被害者を写真に撮影する活動を始めた。現在も展覧会を開催中(※)の大藪さんに、活動の意味を聞いた。

恥じるべきは加害者なのに

――活動を始めたきっかけを教えてください。

大藪順子さん(以下、大藪):被害に遭ったあとのカウンセリングを受ける中で、被害者がTシャツに気持ちを描くというプロジェクトを教えられたんです。そのときに、怒りと恥という2つの感情を覚えました。怒りというのは、「一つの暴力によってなぜ私の人生が変えられなければいけないのか」という怒りです。でも、怒りという感情だけで自分が表現されたら自分が損をする。私はうれしいことも悲しいことも感じていく権利があるのに、これから先、怒りだけを背負うのは私のためにならないから、何とかしなければならないと思いました。

恥というのは、性犯罪被害者の多くが感じさせられる感情です。私はすごく稀なケースで、被害に遭った直後からカウンセリングを受けることができて、カウンセリングの方から「被害に遭ったのはあなたのせいじゃない」という言葉をもらえました。家に押し入ってきた見知らぬ男から被害を受けるという「白黒がはっきりしているケース」だったから、ということもあります。でも、家族やボーイフレンドから被害に遭った被害者などは、被害者が責められたり、「あなたのせいじゃない」という言葉を聞けないことも多い。「恥」で泣き寝入りをさせられているのです。恥じるべきは加害者なのに。

それを伝えるために自分が何をすればいいかを考えたとき、Tシャツでは被害者の顔が見えないことに思い当たりました。被害者も顔があり人格がある。犯罪の統計に並ぶナンバーではない。自分は生きているし、これからも堂々と生きていきたいと思い、同じようにそう思う人がいれば写真に収めたいと思いました。

――ご著書のタイトルは『STAND』ですが、立ち上がるのは相当なエネルギーだと思います。

大藪:被害に遭ったあと、悪夢にうなされたりパニックになったり、毎日とても疲れていました。うれしいことも悲しいことも感じなくて、でも当時はそれが「鬱」の症状とは知りませんでした。その状態が続いたのが1年半ぐらい。その後、自分の体験を仲の良い友達に話したときに、「実は自分も小さい頃にそういう被害に遭った」と言われたんです。

そういうことがあって、「私はこの人たちの苦しみを知らなかった」と思い知りました。目を向ける心の余裕がなかったというか、無関心だったと。無関心ということは、加害者を野放しにする社会に加担することです。反省して申し訳ない気持ちになって、自分が何をできるか考え始めました。

レイプ被害をとりまく偏見と“自己責任論”

性犯罪被害者への理解を広める女性写真家

デイビッド・ニューソン(ネブラスカ州オマハ市)/子どもの頃、毎夏従兄弟の家に泊まりに行っては年上の従兄弟から性虐待を受けたが、誰にも言えずに自分を責め続けながら生きてきたという(撮影=大藪順子)

――性犯罪の場合、被害者を責める風潮というのはまだありますね。

大藪:加害行為は加害者の意志でしか起こらないんです。被害者がいくら注意したって、加害者がどう行動を起こすかなんてわからないから注意のしようがない。でもそういうことは、まだすべての人が理解しているわけではないですね。

アメリカでも、私が被害に遭ったころはまだ性犯罪被害者に対する偏見が強かったですね。レイプの話はタブーでした。当時私は、性犯罪被害者への取材・撮影を自分の勤める新聞社で発表しようと考えていました。でも、「会社のポリシーとして、レイプ被害者の名前は匿名」と言われたんです。承諾書にサインをもらってもダメだと。顔と名前を出したところで、「その人が本当に被害者だってどうしてわかるのですか?」と言われることもありました。被害を訴える人に対して、はじめから疑ってかかるというのは偏見があるからです。

――活動を知った人からは、どんな反響がありますか?

大藪:活動がアメリカのドキュメンタリーに取り上げられるなど反響が大きかったので各地で写真展を行うことになりました。写真展では、それまで性犯罪被害者についていたステレオタイプが解かれていくのを感じました。

被害者が語ることで社会は変えられる

――被害者についていたステレオタイプとは、たとえば「派手な格好をしている人」というようなものですか?

大藪:そうですね。写真に写る被害者を見ることで、「普通の人たちが日常で遭っている犯罪なんだ」「こんなにたくさん起こっていることなんだ」ということを伝えることができたと思っています。

写真展をするたびに、どの会場でも涙を流しながら見ている人がいました。「私も被害者です」って言ってくれる人が絶対いるんですね。知り合いが被害者だったり。

CNNニュースを見ると、今は性犯罪被害者が堂々と顔を出しています。昔より偏見が減ってきたからです。社会はこうやって変えられるんだなと思います。被害者が語ることがタブーだった時代に、私の持つカメラの前に堂々と立ってくれた人たち。あの人たちのおかげです。

※プロジェクトSTAND:立ち上がった性暴力被害者達 2015年2月2日~8日まで、アートフォーラムあざみ野ミニギャラリーで開催。約20点の写真が展示される。

>>【後編につづく】性欲よりも“支配欲” 女性フォトジャーナリストが撮り続けてきた、レイプ被害の真の姿とは?


●大藪順子(おおやぶ・のぶこ)

1971年大阪生まれ。フォトジャーナリスト。高校を卒業後に渡米し、大学卒業後は新聞社に勤務。1999年、鍵のかかった自宅に裏口を壊して侵入した暴漢からレイプ被害に遭う。2001年から、性暴力被害者を撮影・取材するプロジェクトを始め、全米各地で展示会を行う。日本では2007年から毎年、展示会を行っている。2008年、やよりジャーナリスト賞受賞。2011年度シカゴコロンビア大学卒業生賞受賞。2013年に家族と共に帰国。公式サイト

小川 たまか/プレスラボ

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