“ちょうどいい”消費がうむ豊かな生活

『埼玉化する日本』著者・中沢明子さん

>>【前編はこちら】「何もない」の埼玉こそイイトコ取りの買い物ができる―『埼玉化する日本』著者が語る“ちょうどいい消費”

前編では、『埼玉化する日本』(イースト新書)の著者・中沢明子さんに、「ショッピングモール」と「高感度ショップ」のどちらにもアクセスしやすい「埼玉型」の社会が豊かな消費に適しているとお話しいただきました。後半では、地方の商店街の再生、豊かな消費の意味などをお話しいただきます。

シャッター商店街の復興は高感度消費者にかかっている?

――中沢さんは日本の「モール化」「ファスト風土化」には賛成なんですね。

中沢明子さん(以下、中沢):どこへ行っても画一的な風景になることを、手放しで全面的に賞賛するつもりはないんです。しかし、みんなが東京のような大都市に住んでいるわけではありません。日本の多くの人が郊外に住んでいるとすれば、そこで幸せに暮らす装置として、モールがない時代よりはマシ。むしろ、すごいと思うんですよ。どこに住んでいても、ある程度のものを買えるようになったことは、消費生活という側面から見れば、前進だと思います。でも「それだけじゃやっぱり満足できない」となると、次の段階へ行くにはどうするかですよね。

――それには何が必要だと思いますか?

中沢:「商店街」の可能性に注目したいと思っています。全国のあちこちで商店街がシャッター街化していますが、それはモールの存在が原因の全てではないと思うんです。時代によって消費の殿堂は変わらざるを得ない。いつまでもキラキラしているなんてありえない。消費する場所をそれほど選べなかった頃は、商店街が消費の現場の第一線の装置として華やいでいた。けれども、それはすでに過去になりつつあります。

商店街側も、これまで「とりたてて商品構成を工夫しなくても、商店街にお店があるだけで商売が成立していた」といった側面があり、ある意味で、便利な場所という既得権益で成り立ってきたかもしれないのです。その点を冷静に踏まえたうえで、今度はせっかく持っている既得権益をどう上手に使っていくべきかを、真剣に問い直さなければいけない時期にきていると思います。

商店街が生き残っていくには、モールと同じものを売っても、スケールメリットがありませんから、上手くいかないでしょう。私の提案は、高感度消費の方向に進んだほうが良いのではないか、というものです。もちろん、基本的に少数派である高感度消費者がたくさんの商店街を支えるほど多くはいないという意見もあるのですが、すでに商店街が死にそうなのだとしたら、試してみたらいいと私は思います。

高感度消費者は欲しいモノやコトのために、時間と労力を惜しまず、買いにくる意志がある人たちです。街を自分たちの力で活性化したいという願いも強い。商店街を「モールで買えないモノやコト」を提供する場に意識的に変えていってほしい。これからは、駅周辺の商店街や街の有志の方々の「センス」と「努力」が一層必要になってくると思います。

福岡は規模もお店の内容も“ちょうどいい”

――現在、中沢さんが移住してみたいと思うおすすめの場所はありますか?

中沢:私は福岡をおすすめしたいですね。福岡は街の規模は東京ほど広くありませんが、いわゆるモールブランドからハイブランドまで万遍なくそろっているし、高感度ショップも充実しています。先日、フィールドワークで天神からバスで十数分の住宅地にあった、古い民家をリノベーションした東欧のヴィンテージショップに行きました。それだけでは驚かないけれど、ワークショップで東欧の歴史についてみんなで学んでいたんです。あまりの「意識の高さ」に驚きました。

けれど、そうしたワークショップができるようなお店が成り立つなんてすごいなあ、と素直に感激したんです。ワークショップを通して、同じ趣味の人が出会っているわけですよね。こういう場所があれば、「同じ趣味の人が他にもいる」と顕在化するし、このヴィンテージがかわいいよね、というマニアックな話を楽しくできる。これこそまさに「モールで買えないモノやコト」ですし、そんな消費ができる場所があるのは、文化的にも消費的にも、とても豊かだと思いました。福岡の中心地の博多でも、東京ほど家賃は高くないですし、美味しい食べ物も多く、気候も過ごしやすそう。素敵な都市だな、と思います。

「なぜ買うのか」を考えるのは自分の価値観を再確認すること

――都会で暮らす女性が“埼玉的”な郊外に行った方が、より良い消費生活や暮らしが楽しめると思いますか?

中沢:消費に対する意識度合によっておすすめ具合が違ってくるので、何とも言えないのですが、自分は高感度消費の人間だと思っている方は、東京にいたほうがいいと思います。あるいは、ライブや演劇といった「生」のカルチャーが大好きな人はそうでしょう。

ただ、東京で高感度消費生活を満喫するには、ある程度のお金を稼ぐというのは絶対条件です。高感度消費は、必ずしも値段が高いものばかりではないですが、比較的高いものが多い。それを追い続けて生きるという強い意志を持っているなら、やはり東京に住んだ方がいいでしょうね。

それほどじゃないという人なら、もうちょっと外したところに住んで、家賃などのランニングコストを減らし、お金を有効に使ったほうがいいのはないでしょうか。

――読者の女性に、消費生活に対するアドバイスをお願いします。

中沢:商品を見て、なぜ私はそれを買うのか、なぜ今欲しいと思っているのか、なぜそれほど欲しくないのに買おうとしているのか。買う理由をしっかりと考えて欲しいと思います。

例えば、私はさまざまな媒体で仕事をしていますが、特にファッション誌の仕事現場で「イケていないバッグ」を持つのは絶対ナシです。なぜなら、そこではファッションを提案するページを作るチームの一員ですから、あまりにも流行遅れのバッグや“ダサい”バッグを持つことは、信用問題に関わってきます。

私はバッグ好きなので無理にみんなに合わせているつもりはありませんが、いずれにしても、センスの共有を目に見えるようにプレゼンテーションする必要があります。その結果、スタッフ間でバッグがカブる事態によく陥るわけですけど(笑)。先ほども申し上げましたが、最先端の現場であっても、均質性がみられる一例ですね。

ことほどさように、OLさんなら、これくらいもってないと同僚と仲良くなれないといった同調圧力が多少なりともあると思うんですよ。そう言うとバカみたいな話ですが、溶け込めたほうが幸せで、そのために「モノ」の力が助けになるなら、同調したっていいじゃないですか。それを持っていた方が良いという理由づけができれば、ムダ使いのように感じても、できる範囲で買ったらいいと思います。

「なぜこれを買うのか」を1つずつ理由づけしていくと、買って良かった物、買わねばならなかった物、どうでも良かった物、というふうに、自分の価値観が見えてくる。買う物、買った物についてよく考える癖をつけると、自分にとって何が大切で何が不要かが、だんだんわかってくる。

誰しも何かを買って日々を生きています。ですから私は、「買うこと=生きること」だと思っています。後から考えると要らないものを買っちゃったとしても、その買い物について自分に問い直すという経験は、決してムダにはならない。

私もまだまだですが、経験を積み重ねることによって、自分の人生の方向性を見極め、だんだんお買い物上手になっていければよいのではないでしょうか。色々買えとは言いませんが、どうせ買うなら、自分にとって意味のある、より良いものを選び取れるようになりたいですね。


●中沢明子

ライター、出版ディレクター。1969年、東京都生まれ。女性誌、ビジネス誌など幅広い媒体でインタビュー、ルポルタージュ、書評を執筆。著書に『それでも雑誌は不滅です!』(朝日新聞出版)、古市憲寿との共著『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)、プロデュース本に『ケチケチ贅沢主義』(mucco/プレジデント社)、『深読みフェルメール』(朽木ゆり子+福岡伸一/朝日新聞出版)など。

上浦未来

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