2014年5月に公開された、厚生労働省の「年金マンガ」(参照:『いっしょに検証! 公的年金~財政検証結果から読み解く年金の将来~』)が、ネット上で物議をかもしています。マンガの中で、年金をめぐる「世代間格差」を“正当化”するかのような発言や、子を産まない独身女性を責めるような発言が目立つのです。

登場人物は、両親と、会社員の長男(30歳)、公務員の長女(25歳)と大学生の次女(20歳)からなる5人家族。子供たちが「自分たちは年金がもらえない」などと不安を口にするたび、社会保険労務士の「年金子(とし・かねこ)」が、「大丈夫です!」と登場し、年金制度について解説するというストーリーです。

「お年寄りたちのおかげで今の豊かさがあると思えば……」

中でも、第11話「世代間格差の正体~若者って本当に損なの?」には、興味深い描写がいくつもありました。ある夜、公務員の長女(25)が疲れた様子で帰宅すると、次女(20歳)が、「なにかヤなことあったんでしょ~? セクハラ?」と発言。若い女性が落ち込んでいる時に、「性的嫌がらせをされたんでしょ?」とからかうなんて、同性同士でさえしないことでしょう。

このあたりから怪しいのですが、マンガの中盤では、年金子(とし・かねこ)が、「今のお年寄りたちは教育も医療も十分でなかった時代に、自分たちの親を扶養しながらここまで日本を発展させてきました」「そのおかげで今の若い世代が豊かに暮らしていることを考えると、受け取る年金に差があったとしても、それだけで若者が損とは言えないと思いませんか?」と発言します。

しかし、「今のお年寄りたち」を仮に、団塊世代より上(今の60代後半以上)と仮定すると、彼らが生まれた当時(1947年)の合計特殊出生率は「4.54」でした。子が就職した時期は高度成長。賃金はうなぎ登りで、平均4人以上の子供たちは、両親への仕送りもできたでしょう。こうした社会背景と、その後、著しく進んだ少子高齢化を、年金制度設計に盛り込んでいなかったことを意図的に描いていないような印象も受けます。

女性は“産む機械”? 「お見合いパーティーも頑張りましょー!」

また11話には、女性を“産む機械”とみなすかのような表現もあります。公務員の姉が、女子大生の妹に「あんたが結婚して子供をたくさん産めばいいのよ!」と発言するのです。「えぇっなんであたし?」と、びっくりする妹。「女性は子供を産むべき」という内容を、男性が言うとセクハラになるので、あえて「独身の姉妹間のからかい」にすりかえたのかもしれません。

さらには、姉の手を「年金子」が引っ張って、「バリバリ働いて今週のお見合いパーティーも頑張りましょー!」というオチつきです。こうした表現はすべて、女性の役割を「出産」へと本質化する可能性を含んでいます。もちろん、「子供がほしい」という女性は沢山います。でも、多くの女性は、年金制度を支えるために子供が産みたいわけではありません。子供を産む幸せは「個人的な領域のもの」であり、「国(公)への貢献」のために強制された瞬間に、戦中のような“産めよ殖やせよ”になってしまうのです。年金マンガは、子をなす個人的な幸福を、公のものにすりかえています。「踏み越えてはならないライン」を、全く意識していないといえるでしょう。

新成人の91%「将来、国民年金がもらえるか不安」

今の若い人たちは、そもそも年金制度に不信感をもっています。マクロミルが今年の新成人にアンケートを取ったところ、91%が「国民年金は、将来、自分がもらえるか不安」と答えています(参照:2015年 新成人に関する調査)。こうした背景があるからこその「年金マンガ」なのかもしれませんが、これを若者たちが読んでも、「よし! 年金のために子供を産むぞ~!」とは思わないことだけは、確実です。

北条かや

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