成功率3割、1回50万円の負担、予定を立てられない生活 不妊治療は女性を幸せにするのか?

 後編では、女性医師Mさんが不妊治療を経験して感じた問題点や、家族の反応について取り上げます。

【前半はコチラ】命をコントロールしてまで、女は幸せになるべきか? 医師の私が不妊治療をやめた理由

保険適用外、1回40〜50万円を自己負担して臨んだ不妊治療

不妊治療を始めると、心に余裕がなくなりうつになったり、人と会う気力がなくなったり(特に子どものいる友人に会えなくなる)、という女性も決して珍しくはありません。治療に対する温度差から、心の距離ができてしまう夫婦もいるなかで、旦那様も協力的だったし、基本的には前向きな性格のMさん。大きな問題は起きなかったものの、やはり余裕のない時期もあったそうです。「そういえば……」と話してくれたのが、治療期間中、夫にキレてしまった、という話。初回の体外受精がうまくいかなかった日、その結果報告を聞いてあからさまに落ち込む夫の様子を見て、「私のほうが落ち込んでいるわよ! 少しはいたわってよ!」と感情を荒げてしまったそうです。

「今思えば、夫も同じくらいのモチベーションでいてくれた、ということなのですが」と笑顔で語りつつも、このときのMさんには「私は自力で頑張っている」という思いもあったのかもしれません。もともと、夫妻は完全に“別財布”のスタイルを取っていたそうですが、Mさんは「自分の妊娠機能に原因があったから」という理由で、不妊治療費をすべて自己負担していました。タイミング法、人工授精の一部には保険が効きますが、Mさんがメインで行っていた体外受精は保険適用外。そのため、1回に40〜50万という多額の費用が必要でした。

Mさんは利用できなかったそうですが、治療費用の公的なサポートとしては、「特定不妊治療費助成制度」というものがあります。多くの自治体が行っており、1回の補助費は15万円、通算5年度まで、かつ計10回まで支給(初年度のみ3回まで支給)、そして合算年収が730万円未満の夫婦のみ、などの条件付きです。この制度を利用し、「補助が受けられる年に2回だけ治療を行う」という夫婦もいるそうですが、本来、できるだけ治療は急ぎたいこと、毎月の生理周期ごとにトライが可能な現実を考えれば、決して十分な補助とは言えないでしょう。とはいえ、誰もが受ける治療ではなく、病気でもないことを考えると、保険適用にすべきか否かについては様々な意見があるかと思います。

「夫はきっと分かってくれる!」 自分史を書いて説得

Mさんが「不妊治療をやめる」「単身赴任をして働きたい」と決意したとき、理解がある夫とはいえど、さすがに説得は一筋縄ではいかないだろう、と考えたMさん。そこで夫へのプレゼン資料として、「自分史」を作り始めます。私はこういう人間で、こういう経緯があって医者になって、今はこう思うようになっている、だからこうしたいんだ――。

しかし、この資料を書き上げる前に、旦那様は条件付きの賛成をしてくれたそうです。その上、同居の義母にも(もともと理解のある方だったそうですが)話をつけてくれたそうです。「もし家族に反対されたら、どうするつもりだったの?」と多くの友人に聞かれたそうですが、心のどこかで、「きっと夫はわかってくれる」と信じていたそうです。

「今までも、私のことを応援してくれたから」

夫婦の絆を感じる言葉でした。

身体と心の疲弊…「未経験の激痛」「担当医のプレッシャー」

治療に関して、想像以上に辛かったこと、大変だったことを尋ねたところ、Mさんは「未経験の痛み」「公私ともにすべての予定が立てられないこと」「予定が変わったときの調整や、周囲への気遣い」という3点を挙げてくれました。痛みには個人差があり、生理痛のひどい程度、という人もいるそうですが、卵管の狭かったMさんにとっては、非常な激痛だったそうです。予定については、排卵のタイミングはなかなか読めないため、前日の夜に「では明日来てください」となることも多く、仕事でもプライベートでも確実な予定を入れられない。そのため、謝罪や代わりの人の調整などに非常に気を遣い、疲弊した……とのことでした。

また、「担当医との関係は良好だったか」という質問に対しては、「ひどく傷ついた経験が一度だけあった」ということでした。成果が出ず、「しばらく治療を休みたい」と申し出たMさんに、担当医は「そんな悠長なこと言っていられないわよ!」と厳しい一言。「自分の妊娠機能からして猶予がないことはわかっている、でも落ち込んでいるとき、その事実を他人から突きつけられるのは辛かった……」と、Mさん。「今となっては、あの言葉は『諦めてはダメよ!がんばりなさい!』という激励だった気がしますが」と笑顔で語ってくれましたが、そう思えるようになったのは、その医師がその後ずっと親身にMさんと向き合い続けてくれたからだそうです。

これから治療を受ける人へ 3つのアドバイス

最後に、治療中の人や、これから治療を受ける人に対してMさんにアドバイスをもとめると、 (1)長く続けたいなら深刻に考えすぎず、(2)納得できるところまでのトライでいい、(3)雑音(周囲の意見)は気にしないこと、を挙げてくれました。治療を始めると、様々なノイズが耳に入ってきて、「自分にはこの治療法でいいのか?」「この病院でいいのか?」と非常に迷いやすくなる。医師の彼女でさえも、インターネットやブログなどを盛んに閲覧したそうです。有意義な情報もあったし、治療中の方のブログなどは参考になったと語りましたが、基本は「病院を代えてもいいので、まずは自分が信頼できると思える医師を見つけ、その人と一緒に頑張っていくことが大切では」とのことでした。

しかしながら、ひとりの担当医がすべての治療を看られる病院はまれなので、「医師間での報告、病院内での方針統一がしっかりできている、そして効率のいい医師交代システムを作っている病院を選ぶといいかもしれません」というアドバイスもいただきました。

女の幸せを、どう考えるか

不妊は、女性の社会進出と切っても切れない問題。年齢が高くなれば誰でも不妊になる、ということはありませんが、不妊の確率が高くなっていくのは事実です。Mさんも、「20代中盤くらいの、仕事を頑張りたい時期と、妊娠出産がスムーズにできやすい年齢がバッチリかぶっているのは大きな問題だと思う」と語っていました。こうなってくると、極論ですが、「キャリアを始める前に産んだほうがいいのではないか?」という考えさえ頭をよぎります。無論、産みっぱなしにはできませんので、協力してくれる人員や環境は、どちらにしても必須ですが。

ポジティブでやりがいのある希望の職業に就いている彼女でも、「女として、自分は欠陥品なのかと落ち込んだ」という治療の日々。社会からは「労働力」として期待され、一方で「少子化解消」の役割も期待され、そして常に「女の幸せ」が見えない空気としてのしかかる。現代女性が背負っているものの大きさに、改めて考えさせられた取材でした。

不妊治療の一般的な成功率は、およそ3割程度。子どもがほしいけどできにくい、とわかったとき。この確率の低い、決して楽ではない選択に、あなたならトライしたいと思いますか?

外山ゆひら