マイルドヤンキーにみる貧困の防御策

『最貧困女子』著者・鈴木大介さん

>>【前編はこちら】「女性も自立すべき」という風潮が貧困を生む ―『最貧困女子』著者が語る、負のスパイラル構造

最貧困女子』(幻冬舎新書)の著者であるルポライターの鈴木大介さんに女性を取り巻く貧困事情について伺うインタビュー。前編では、アラサー女性が貧困に陥る原因についてお聞きしましたが、後編では、貧困から抜け出す方法についてお話していただきました。

腹を割って話し合える人間関係を構築する必要がある

――独身女性にとって結婚という制度が貧困から身を守る手段になり得るのでしょうか?

鈴木:地方のいわゆるマイルドヤンキー層の話を聞くと、夫婦でそれぞれ非正規をWワークして、1世帯で4つの仕事に就くというのがベストという価値観になりつつあるようです。どちらかの仕事がひとつダメになったとしても、生活を支える基盤が3つ残るわけです。

マイルドヤンキーって馬鹿っぽい語られ方をされていますけど、皆すごく考えているんですよ。彼らが言う、一番まずい家庭のカタチが専業主婦で正規雇用の旦那を持つこと。旦那がダメになったら、もう終わりですよね。

24歳くらいで子どもを産んで、30歳までに小学生に入れるというのが、彼女たちの最小リスクの考え方です。子どもが小学校に入れば、離婚しようが女手ひとつでガンガン働いてなんとかなる。一番仕事が無くなる時期に子どもに手がかかるのを怖がる感じです。

マイルドヤンキーがなんでこんなに考え方が富んでいるのかっていうと、ひとりで考えてこういう結論に至るわけではなくて、腹を割って友達と話す機会が多いから。そうなると考えも自然と練れて「これがベストじゃないの」って答えが出る。意外に都市部の若い人の人間付き合いって、お金の話とか将来設計の話とか、腹割って話す機会ってないですよね。

そういう意味では先に地方の経済低迷があるなかで、先に危機に陥って、先に打開策を考えているのがマイルドヤンキー、という印象を受けました。

やっぱり、都市部の女性も最大のリスクは孤独だと思うんです。とにかくいろいろ相談できる、腹を割っていろいろ話してお互いの論を深めていけるような人間関係を構築する必要があるのではないでしょうか。

でも、孤独に対するリスクと結婚した方がよいかどうかは別問題です。安易な結婚によって、貧困を招くケースも多いですから。でも、腹を割って話せる友人がいれば間違った選択をしてしまうリスクも軽減できますし、何かあった時に助け合える環境に身をおくこともできる。マイルドヤンキー世代が低所得ながらもQOL(生活の質)が高いとされる所以は、この仲間内、親族間の絆が強固で助け合いのシステムが盤石であるからなんです。

でも、マイルドヤンキー世代にも貧困穴がないとはいえません。例えば支援してくれる親に介護が必要となった場合。支援される側から支援する側に回らなければならなくなると円滑に回っていた支援の輪は崩壊します。また、仲間内で何らかのトラブルが起きた場合。仲間から弾かれた瞬間にその地域で生活することは困難になります。

結婚したから安泰。よい職に就けたから大丈夫。というのは過去の神話です。結婚も仕事も安定した生活を一生送れるという保証にはなり得ない。それが今の日本という国なんですね。

早い段階で救い上げるほうが社会的損失は少ない

――貧困側に入り込んでしまった独身女性がそこから抜け出すためにはどうしたらよいのでしょう?

鈴木:最後の手段が生活保護ってよく言いますが、生き死にのレベルになるまで申請が通らないという話だったら、その制度そのものがおかしいんであって、限界を感じたらすぐにでも、生活保護を受けるために福祉事務所に行くべきですよね。なぜなら、貧困は悪化すればするほど抜け出すのが大変になるから。現状の制度だと、生活保護の申請が通る段階では既に再び立ち上がるための体力も精神力も枯渇しているケースが多いんです。そこからの再起は時間がかかる。だとしたら、早い段階で救い上げることのほうが、社会的損失は少ないはずなんです。貧困に陥った人たちも、日本の大事な生産力ですから。

例えばすごい熱が出ている人に「働けよ」って誰も言わないじゃないですか。「病院行って寝ろよ」って話。貧困もそうだと思うんです。「病院行って寝なさい」っていうのが、「まず社会福祉事務所に行って、一回休みなさいよ」ということだと思うんです。

疲れ果てて本当に働けないっていう人たちが、病気で倒れている人とはまったく違うように見られるっていうのはおかしな話で、弱った人間を支えていくのが公的扶助というものですよね。であるなら堂々と受けるべきだと思うんです。

病院や医療と同じような使い方で公的扶助というものを使って欲しい。積極的に使うことで、早く休んで早く復帰した方が社会的損失が少ないですよね。

生活保護から抜けられないのは社会や制度の問題

――生活保護を受けた後、貧困から脱出するためにすべきこととは?

鈴木:一度、生活保護を受けた女性たちがそこから完全に復帰するには時間がかかります。でも、それは本人たちが頑張ることじゃなくて、社会の側が頑張ることです。

第一に、生活保護を必要とする貧困にある時点で、心が疲れ果てている状態にあるので、まずは眠くなくなるまでちゃんと寝て欲しい。で、その後、当然、就労支援などを行うワケですけど、そこで結果が出なかったからといって、自分の努力不足だと思わないで欲しいんです。いきなり生活保護をゼロにするって考えなくていい。少しずつ稼げるようになっていって、生活保護の額をどんどん減らしていく方向に進めばいいんです。

貧困から100%脱出したいって焦っても、また同じような場所に戻ってくるだけなんで。必要最低限の文化的な生活を生活保護と低所得のダブルインカムという状態で維持する。その中できっちり休みながらやっていってほしいです。もしここから一生抜け出ることができないってなったら、それは本人の問題ではなく社会や制度の問題ですから。

――貧困への不安を抱える独身女性にひとことお願いします。

鈴木:あなたたちが低所得なのはあなたたちのせいだけではない。社会や会社の問題です。自己責任論は他人に投げかけることも悪ですけど、自分に投げかけるのは不健全です。

外から見れば自己責任に見えるようなことでも、その「自己」を食い潰し、判断力を奪うのが、貧困という状況に感じています。貧困はあなただけのせいではありません。

●鈴木大介
千葉県生まれ。「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会・触法少年少女らの生きる現場を中心とした取材活動を続けるルポライター。著書である『最貧困女子』(幻冬舎新書)では、貧困によってセックスワークに身を落とす女性やシングルマザー、ネカフェ難民として生き抜く女性たちの体験が生々しく語られている。

(橋本真澄)

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