シングルマザーが貧困から脱出できな理由

『シングルマザーの貧困』著者・水無田気流さん

2014年後半、女性の貧困について書かれた本が相次いで出版されました。鈴木大介著『最貧困女子 』(幻冬舎新書)、大和彩著『失職女子。』(WAVE出版)、仁藤夢乃著『女子高生の裏社会 「関係性の貧困」に生きる少女たち』 (光文社新書)。これまで存在自体に気づかれていなかった層にやっと光が当たりはじめたのです。

そしてこの流れに新たな1冊が加わりました。水無田気流著『シングルマザーの貧困』 (光文社新書)――女性がひとりで産み育てることに対してきわめて厳しい今日の社会が、6人のシングルマザーの実例を交えつつ、冷静に解き明かされていきます。その背景にあったのは、社会保障に女性の働き方、理想の家族像……。シングルマザーだけでなくすべての女性に「生きづらさ」を感じさせているものでした。どうしてそんな社会になってしまったのか? 解決策はあるのか? 著者の水無田気流さんにうかがいます。

シングルマザーが働いて得ている収入は一般世帯の29%

――現在、子どもがいる世帯のうち8世帯に1世帯は、ひとり親世帯です。そこに広がる貧困とは、どういったものでしょうか?

水無田気流(以下、水無田):ひとり親世帯のなかでも圧倒的に多いのは母子世帯ですが、女性の貧困問題が子どもの成育環境に直接的な影響を及ぼしている点は本当に深刻です。8世帯に1世帯というと決して多くはないですが、30年前と比べて1.7倍増になっていますし、今後も増えていくでしょう。特殊な例としてスルーしてはいけません。

そして母子世帯では、平均すると一般世帯の36%ほどの年収しかないんです。ここには養育費や児童扶養手当なども含まれますから、シングルマザーが働いて得ている収入となると、一般世帯の29%です。といっても、養育費は受けたことがない母子世帯が全体の6割、それも離婚から年数が経つほど支払われなくなりますから、ほんとんどアテにできません。

――シングルマザーになる=経済的リスクが高いというのは、なんとなくであっても女性たちの共通認識としてあるように思います。そう考えて離婚しない女性も多いのでは?

水無田:今回お話をうかがった女性はみなさん、子どものために離婚しています。暴力や借金、生活費を渡さないなど経済的DVがあり、「子どもに負の影響しかもたらさないため、父親はいないほうがいい」と判断したのです。シングルマザーから話を聞くというのは、ダメ男の話を聞くということでもあり、その点がしんどい仕事ではありました。

一方で、同じくDVや生活苦にさらされていても、経済的な事情やさまざまな理由で離婚できずにいる女性たちもたくさんいます。私はそんな彼女たちのことを「潜在的シングルマザー」と呼んでいますが、結婚しているうちは抱えている問題がひとつも解決されないので、思いきってシングルマザーになった人より大変な面もあるでしょうね。

必要なのは就労によって貧困から抜け出す支援

――さきほどシングルマザーが働いて得られる収入の低さに触れられましたが、なぜそのようなことが起きるのでしょうか?

水無田:もともと日本では、女性が出産を経て正規雇用の職を継続就労しにくい雇用環境があり、そのうえシングルマザーは「ハイリスクな人材」と見なされているからです。残業はほぼできないし、子どもが熱を出せば休む可能性が高い。つまりは、企業からすると中途採用したくない人材なのです。

――面接で訊かれることがその人のキャリアやスキルではなく、「残業できるか」ということばかりだった……というシングルマザーの苦悩も本書では描かれています。

水無田:そうなんです、その人ができることより、その人の属性を重視するのが日本の企業。個人の能力ではなく属性によって働き方が制限されるって、まるで封建社会ですよね。でも就労支援を受けるなどして、なんとか働けたとしても、次にシングルマザーを待ち受けているのは〈時間貧困〉です。

もともと日本では、専業主婦でもフルタイムで働く女性でも、日常的な子どもの養育者は9割が母親です。育児言説の国際比較で見ても、日本の子育ては「手間数が多い」「父親不在」が大きな特徴です。家事や育児、介護などのケアワークを一手に担っているのが、日本のお母さんたち。だから男性は、外で何の心配もなく長時間労働できたのです。

これまで女性は「働いて自活する誇り」を与えられずにきましたが、その裏にはこうしてケアワーカーとしての役割を期待されていたという事情があります。そうなるとシングルマザーは家計責任を果たすため、仕事人間として会社に勤めながら、家庭では母親役割として期待される100%のケアを提供しなければならない……これは無理ですよね。

――シングルマザーは、働けど働けど貧困から抜け出せないわけですね。

水無田:シングルマザーは8割以上が就業しているのに、貧困率は5割を超えます。だから、必要なのは就労支援ではなく、就労によって貧困から抜け出す支援です。拙書では、日本が参考にすべき諸外国の支援制度も紹介しています。

シングルマザーの方は、家計責任と家庭責任の両方をひとりで背負わされる状況が変わらないかぎりは、いつまでたっても苦しいですよね。ケアの時間が必要な人ほど、その時間を確保するためにある程度の所得が保障されなければならないのに、現実はまったく逆です。こうした社会保障制度のあり方は、早急に変えていかないといけないものです。

貧困を気の毒だねというだけの時期はとっくに過ぎている

――こうして社会保障制度にも守られているとはいえない状況下で、必死に子どもを育てているシングルマザーたちですが、世間が彼女らを見る目はあたたかいとはいえません。「貧困に陥ったのは自己責任」「親の勝手のせいで子どもがかわいそう」というバッシングもあります。

水無田:そんなことをいったところで、ただただ不毛ですよね。同時にあるのが、「かわいそうで気の毒なシングルマザーの人たちをなんとかしてあげましょう」という風潮です。テレビや新聞で報道されるのは、「クリスマスなのにおにぎり1個」とか、いかにも哀れな貧困家庭の悲惨な状況が多く、それはたしかに人々の関心を集めるのに一定の効果はあるでしょう。

でも、それだけではただの感情論に終わってしまいます。例えるなら、サファリパークの安全な車のなかから貧困という名の珍獣を眺めて、かわいそうだね、気の毒だねというだけの時期は、もうとっくに過ぎているんです。

――現状ではまるで「ほどこし感覚」ということですね。

水無田
:かわいそう、気の毒だから助けてあげよう……という文脈では、おとなしくすまなそうにしているシングルマザーは助けてあげるけれども、そうではない場合は助ける必要はない、となってしまいます。

日本人は、物申したり権利を主張する弱者にものすごく厳しい傾向がありますが、社会の人権意識を変えていかないと、この問題は解決しません。シングルマザーが問題を抱えているということは、生まれてくる子どもの平等が守られていないということなので、そもそも民主主義社会が基盤とすべき人権の問題なんです。

どんな家庭環境にあっても、生まれてきた状況がどんなものであっても、子どもには平等に育つ権利があります。最近ではようやく婚外子差別もなくす方向で動いていますが、これも人権をベースに考えると当然ですよね。

 

感情論が先立ち、人権意識が未成熟な社会。そのひずみに陥って貧困と生きづらさを強いられているシングルマザーですが、「標準世帯を踏み外した人」というレッテルによってますます追い込まれているという事象も水無田さんは指摘しています。

>>【後編につづく】サザエさんに見る日本の“家族信仰”は異常 『シングルマザーの貧困』著者が語る、標準以外を無視する社会

三浦ゆえ

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