「家族」に向き合う映画プロデューサー

ドキュメンタリー映画『うまれる』『うまれる ずっと、いっしょ。』プロデューサー・牛山朋子さん

今や映画界をけん引すると言っても過言ではない、女性の映画監督、映画プロデューサー。彼女たちは次々と素晴らしい作品をリリースしています。ドキュメンタリー映画『うまれる ずっと、いっしょ。』の牛山朋子プロデューサーもそんな注目女性プロデューサーのひとり。牛山さんは誕生をテーマにした前作『うまれる』と本作『うまれる ずっと、いっしょ。』の監督でもある豪田トモ氏の妻でもあり、一児の母でもあります。

大学時代にコンサルティング会社を起業、その後、出版社でファッション誌の編集者を経て、創業時の楽天に入社……と、キャリアを重ねたのち、映画の世界に飛び込んだ牛山さん。今、プロデューサーとして活動しつつ、妻、母として軽やかに前向きに生きる牛山さんに、映画プロデューサーに転身したいきさつと“誕生と家族”というテーマのドキュメンタリー映画を手掛けた理由を伺いました。

プロデューサーの仕事をして初めて映画の面白さを知った

――映画プロデューサーになったいきさつを教えてください。

牛山朋子さん(以下、牛山):私は、プロデューサーと名乗るのは恥ずかしいくらい、映画を見てこなかったんです。この業界に入る前は、デートでハリウッド映画を観るくらいで、豪田にも、日本でいちばん映画を観ていないプロデューサーって言われます(笑)。そんな私が最初にかかわった映画は、2010年に公開した『レオニー』という映画で、アソシエイトプロデューサーの仕事をしました。当時、私は楽天の社員。8年勤めまして、そろそろ変わるときかな……と感じ始めた頃、『レオニー』と出会いました。

映画の世界はまったくわからず「何が必要でしょうか」とスタッフ監督に聞いたら「映画作りにはお金が必要」と言われ、それでアソシエイトプロデューサーとして映画制作の資金集めをしたのです。そのときに、映画作りは面白い! と。みんなでひとつの世界を作り上げることが楽しいと思ったし、映像、音、すべてが凝縮された映画は、こんなにも人の心を動かすんだと。映画をあまり観てなかったからこそ、心に響いて、続けたい! と思ったのですね。豪田と出会ったのも『レオニー』を通じてでした。カメラのスタッフとして参加していたのです。

――前作の『うまれる』が豪田監督との映画の第1作目ですよね。この映画のきっかけは?

牛山:当時、豪田はいろいろな映画の企画を考えていて、その中のひとつが『うまれる』でした。男性でああいうテーマを考える人はあまりいないな……と思ったのと『レオニー』のあと、映像の勉強をしようと、テレビ番組やDVD制作など豪田と一緒に仕事をして、そのときドキュメンタリーは面白いと思い、『うまれる』はスタートしました。

親子関係に複雑な事情を抱えている人々

――『うまれる』は夫婦の出産「命の誕生」をテーマにしたドキュメンタリーですが、ただ赤ちゃん誕生を待っている夫婦ではなく、親から精神的な虐待を受けていた女性や、親になりたくなかった男性、死産を経験するご夫婦などが登場し、『うまれる ずっと、いっしょ。』は、血の繋がらない息子に真実を伝える若い父、妻を亡くした悲しみから少しずつ立ち直っていく夫など、みなさん何かしら複雑な事情を抱えていますよね。登場される方は、どのように選んでいるのですか?

牛山:そうですね。『うまれる』は最初にサイトを立ち上げて、出演者を募集したんです。そうしたら、全国から400組くらい応募があって驚きました。400組の夫婦には400のドラマがあって、そのうち実際には、100組に話を聞いて、最終的に10組のご夫婦の出産までを撮影させていただきました。

『うまれる』も『うまれる ずっと、いっしょ。』も根本的には、家族関係を解決するという目的があります。だから、親との葛藤や親子関係の悩みに向き合おうとしているご夫婦を選びました。親子関係は豪田の悩みでもあったので。彼はもっと親に愛されたかったという想いをずっと抱えてきて、結婚や親になることに不安を抱えていました。だから、2作品とも、どうやって家族を築いていくか……に焦点を絞った作品です。

――豪田監督も葛藤しながら生きてきたのですね。牛山さんの家族関係はどうだったのでしょう?

牛山:それが、私は何も問題のない家族でとても愛されて育ちました。子供の頃からわりと優等生で足も速くて(笑)。仕事も楽しく、以前勤めていた楽天では肩書きもどんどんよくなっていったし。そんな風に能天気に生きて来たけど、映画の世界に入ってドキュメンタリーを手がけるようになって、価値観が変わりましたね。

ドキュメンタリーの仕事って、家族のようにプライベートな部分まで入り込ませてもらうので、彼らからたくさんのことを学びました。子どもとの向き合い方、パートナーとの向き合い方。それまで向き合うことがなかった問題と向き合うことができるようになったのが良かったです。また仕事のパートナーとしての豪田と夫としての豪田との向き合い方など。この仕事をするまで、あまり深く考えず、なんとかうまくいくはず……と思っていたことのひとつひとつが大切だと気付かされましたね。

「家族」に向き合う映画プロデューサー

気付かない振りはせず、向き合う勇気を持とう!

――人って問題を抱えていても、あえて見ないようにしがちですよね。

牛山:私、8、9割の人は、恋人とうまくいかない、仕事がうまくいかない、親のプレッシャーがキツいなど、小さな問題から大きな問題まで、程度の差があれど、何かしら抱えていると思うんですよ。でもそのうちの、9割くらいの人が見ない振りをしているんじゃないかと。例えば、果たして自分にはこの仕事が向いているのか……と思っても、モヤモヤしたまま続けていたり。でも、避けずに、ちゃんとその問題と向き合い、考え方を変えてみるだけで改善することもあると思います。

――なるほど。問題に蓋をせず、向き合う勇気を持とうということですね。牛山さんは『うまれる』『うまれる ずっと、いっしょ。』を製作して変化はありましたか?

牛山:私は、前作『うまれる』の製作期間は妊婦でした。映画公開と同時に出産したのですが、映画の製作を通じて、変わったというより、日々成長させてもらっていった感じがします。映画の取材で得た刺激がそのまま育児や家族関係に影響を与えています。まだ子供は小さいけれど、ちゃんと向き合おうと思っていますし、きちんと伝えて行こうと思っています。

育児には仕事の充実感とは違う面白さがある

――牛山さんと豪田監督はご夫婦で、仕事も家庭もいつも一緒ですが、やりにくさとかありませんか?

牛山:よく、24時間一緒で耐えられるねと言われますが(笑)、映画作りと子育てを共有しているので、飽きないし、楽しいです。働きながらの子育ても辛くはないですね。私、出産するまで子供は苦手だったんですよ。どう接していいのかわからなくて、赤ちゃん言葉で話さなくちゃいけないの? というくらいで。でも、産んでみて、子供を育てるってすごいこと、こんなに面白いことがあったんだと思いましたね。

確かに自由にできる時間は制限されますが、それ以上に、クリエイティブで幸せです。好きなことをめいっぱいやってきたので。もちろん出産と育児には、経済的なことも関係してくるし、もっと彼と二人だけの時間を持ちたいという気持ちもあるでしょう。でも育児、面白いよ! と言いたい。仕事の充実感とは違う面白さがあります、違う世界が広がりますから。

――最後に『うまれる ずっと、いっしょ。』についてメッセージを。

牛山:この映画に登場する夫婦と家族は、見逃しがちなことや見ないようにすればいいと逃げがちなことに正面から向き合っています。この映画を見て、親に感謝の気持ちを言葉で伝えたり、不安だったことが払拭されたり、小さな不安や悩みが改善されるきっかけになればいいなと思います。

●牛山朋子(うしやま・ともこ)
映画プロデューサー。慶応大学在学中にコンサルティング会社を起業。WEBを利用したコミュニケーションビジネスに関わる。その後、出版社でファッション誌の編集を経て、楽天に入社。企画・マーケティング、フリーペーパーの編集長として活動後、日米合作映画『レオニー』のアソシエイトプロデューサーを務めたのを機に、楽天を退社。豪田トモ監督作『うまれる』第二作『うまれる ずっと、いっしょ。』をプロデュースした。2010年豪田監督と結婚。一児(女の子)の母。

うまれる ずっと、いっしょ。
2014年11月22日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

斎藤香

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