受刑者の心を掴む刑務所アイドルに取材

全国に設置されている刑務所をはじめとした「矯正施設」。娯楽や自由とかけ離れた世界というイメージがある場所ですが、年間を通して行事なども行われています。例えば、運動会やクリスマス会などのほかに、歌手や漫才師などが訪れ歌や芸を披露する、通称「慰問」という催しもあります。

こうした慰問は刑務所や拘置所をはじめ、少年院など計188か所(平成22年4月時点)で定期的に行われています。

そうしたなか、2人組の歌手「paix2(ぺぺ)」による「プリズンコンサート」が受刑者から熱狂的な支持を集めています。“刑務所アイドル”とも呼ばれる「paix2(ぺぺ)」の北尾真奈美さんと井勝めぐみさんに活動について聞きました。

シーンとしたなか人がまったく動かずに座っているコンサート

――「paix2(ぺぺ)」が結成されたきっかけを教えてください。

井勝めぐみさん(以下、井勝):当時私達が住んでいた鳥取県で、のど自慢大会のような歌の大会があったのですが、お互いが別々に出場していました。その大会の主催者側に今のマネージャーでもある片山さんがいて、大会後に「2人で組んで歌ってみたら」と連絡をもらいました。私は当時看護師をしていましたので、2年くらいかけて両親を説得して徐々にデビューに向けての準備をしていきました。

――それまで、歌の活動はどれくらいされていたのでしょうか?

北尾真奈美さん(以下、北尾):私は大学の研究施設で働いていたのですが、歌はカラオケで友達と歌うくらいで本当の趣味程度でした。なんとなく歌手には憧れていましたが、まさかデビューして今の様な状況になるとは夢にも思いませんでした。2000年にインディーズデビューしてからは、県内のイベントに出させてもらったり、小学校にCDを寄贈させてもらったりと基本的に地元で活動をしていました。

――そうした活動の一環として刑務所でのコンサートが行われたのでしょうか?

井勝:地元での活動の一環で、一日警察署長をさせて頂いたのですが、イベントが終わった後に歓談の席で、署長さんから「ぺぺさんの歌は爽やかだから刑務所などで歌っても喜ばれるかもしれないね」と言われました。それがきっかけで鳥取刑務所での第1回目のコンサートが実現しました。

――初めて刑務所で歌を披露されたのが、2000年です。このときの心境はいかがでしたか?

北尾:それまで、商業施設や小学校とかでのイベントしか経験していなかったのですが、歌を届ける対象が大人の男性になっただけかなと、すごく気軽な感じで行きました。それがステージに出た途端にこれまでとは全く違う雰囲気に圧倒されてしまいました。

井勝:体育館のようなところに、椅子が何かで測ったかのようにきれいに並べられていて、シーンとしたなか人がまったく動かずに座っているんです。コンサートと言えば会場内がある程度ざわざわした様子が、どん帳の後ろに居ても伝わってくるものですが、刑務所内では全く私語は聞こえないし、勝手に椅子を立つこともできません。規則で私語が禁じられているのでアクションは拍手だけです。

開演前はこんな状況でコンサートを始めてもいいのかと不安になりました。

そんななか1時間のステージを何とか歌い終えましたが、今まで味わったことがない緊張で、手の震えが止まりませんでした。

――そうした実体験を経て、刑務所での「プリズンコンサート」を2001年から本格的にスタートさせました。大変なことも多かったのではないでしょうか?

井勝:メジャーデビューしてから何かひとつ継続してできることをやろうということになり、相談の結果、活動方針として、刑務所でのコンサートに決まりました。最初はダイレクトメールで全施設にコンサートの案内状を送らせていただいきました。でも送ったところで反応があったのは数施設。やはり特殊な場所なので、受け入れる側も慎重になりますよね。なかなか順風満帆のスタートとはいかなかったですね。

北尾:その当時は、刑務所には私達とは違う世界の人たちが入っているという風にしか思っておらず、未知の世界だったので怖いなという思いも強かったです。家族も多少心配していたようです。

井勝:いまでこそやっと歌手として生活ができるようになりましたが、刑務所でのコンサートは基本的にボランティアですから、刑務所や少年院に行くまでの高速料金やガソリン代などの交通費は総て持ち出しです。収入には繋がらないので2人とも預金も底を尽きてしまい、マネージャーの片山さんも四苦八苦していたようです。当時は1日おにぎり1個で我慢する日もあったほどで、経済的にも大変な時代が長く続きました。

同じ音楽業界の人たちには、「刑務所で歌ってもお金にもならないしCDも売れないでしょう、そんなのは意味がない」と言われましたが、それでも受刑者の皆さんが待ってくれていると思うとそれが使命感に変わり、徐々にこの活動だけは続けたいと思うようになりました。

受刑者「ペペは同じ目線でしゃべってくれる」

――プリズンコンサートのなかでも、お2人のMCはとくに受刑者の心を惹きつけるものがあると聞きました。

北尾:最初は結婚式に出ているときと同じで、あれ言ってはいけない、これ言ってはいけない、とか考えながらステージに立っていたので、全然しゃべれなかったんですよ。

ただ、あるとき本当はこちらからの問いかけもダメなんですけど、『歓迎!Paix2(ぺぺ)コンサート』と書かれた立派な看板が舞台に吊られていましたので「ステージの看板を作ってくれたの誰ですかー?」と聞いたとき、「はーい!」と大きな声で答えた受刑者の人がいたんです。そのとき「ほんとうですか?」と聞いてしまいました。そしたら「すみません嘘で~す」と返って来たのです。

私は咄嗟に「嘘をついたらまたひとつ罪が増えますよ」と言ってしまいました。「まずい!」と思ったんですけど、会場がドカーンとウケて爆笑に包まれたんです。そこから舞台進行で笑いを取れるといいなと思うようになりました。

例えば、冗談なんですけど、刑務所内で作業して働いたお金のことを「作業報奨金」と言います。その報奨金を出所時にもらうことになるらしいのですが「報奨金でpaix2のCD買ってくださいね」って言ったりするんです。まず、報奨金はほんの僅かな金額ですし、私たちが「報奨金」という言葉を知っているんだということで結構ウケて笑ってくれたりします。そういう専門用語を使っていると、受刑者の感想文に「ぺぺは同じ目線でしゃべってくれる」と書いてくれた人もいて、より身近に感じてくれているのかなと思います。

気を付けていることは、上から目線で決して説教じみた話にはならないように気を付けています。

井勝:私は看護師時代の経験をふまえて、「生き様は死に様」という話をしています。人はどの様に生きるかで、死ぬときに孤独かそうではないかが決まるという主旨の話をさせて頂いています。皆さんそれぞれの事情があって収容されているわけですが、傷つけてしまった家族や大切な人がいたりして後悔の念があるんだなと感じる場面ですね。

>>【後編につづく】刑務所は「幸せの対極にある世界」――刑務所アイドルが紅白出演を目指す理由

末吉陽子