「生活保護」は生きるための健全な制度

作家の雨宮処凛さん

>>【前編はコチラ】貧困に陥っても“絶対に死なない方法”がある 『失職女子。』著者が雨宮処凛と語る「生活保護」

貧困のリアルと「生活保護」にいたるまでの一部始終を当事者として『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで』(WAVE出版)に書き著した大和彩さん。ヘイトスピーチ、原発、そして貧困……あらゆる社会問題に鋭い目を向け行動する雨宮処凛さん。

おふたりの対談後編は、生活保護の〈申請〉にまつわる現実から始まります。

生活保護受給者は「生きていて申し訳ない」と思ってしまう

雨宮処凛さん(以下、雨宮):大和さんの本に出てくる福祉事務所やハローワークの担当さんが、かっこいい! プロとして仕事を全うされていますよね。でも現実には、貧困の相談や生活保護申請のために役所を訪れ、イヤな思いをした人がたくさんいます。ただでさえ弱っているときひどい対応をされたら、ほんと自殺しかねません。

大和彩さん(以下、大和)
:私も申請する前にいろいろ本を読んで調べたのですが、そこには役所で追い返された結果、不幸にも餓死や凍死されてしまった人たちが何例も紹介されていました。これを早くに読んでいたら、勇気が出ず役所に行くことすらできなかったかも……。

雨宮:法律を遵守するよりも、その役所だけのローカル・ルールに則っている現場が少なくないのが実情です。なかには「甘えさせたらダメだから、必ず一度は追い返す!」と決めているケースワーカーもいるんですよ。どこの役所で、誰に対応されるかによって道が分かれてしまうのは、とても怖いです。

大和:私は幸運だったんですね。役所といっても一律に怖い対応のところばかりでなく、親身になってくれる人がいることも知ってもらえれば、申請へのハードルも下がりますね。

――そうして申請が無事に受理され、生活保護のセーフティネットで受け止められた人たちにとっても「恥」の意識がつきまとうといわれています。

大和:私にもそれはあります。道を歩いているだけで石を投げられるんじゃないかというレベルの怖さがあります。

雨宮:生活保護の人の自殺率は、それ以外の人と比べてとても高いんです。20代だと7倍ぐらいの差がある。もともと受給者には精神疾患をかかえた人が多いのもありますが、恥の意識も重大な要因です。「生きていて申し訳ない」と思ってしまうようですね。

生活保護より風俗のほうが恥の意識が薄い

貧困に陥っても死なない方法「生活保護」

『失職女子。』著者の大和彩さん

――生活保護バッシングもますます強くなっていく気配を見せています。

雨宮:特にいまの60~70代は、経済成長と自分の人生がリンクしてきた世代。だから、働かないでお金をもらうことを最大の罪と見なしているし、その考えは彼らの子ども世代にも受け継がれています。欧米をはじめとする各国では、生活保護を受けるべき人に制度をちゃんと届けることが国家の義務とされていて、それを権利教育として学校でも教えます。日本の場合は正反対で、国会議員が率先して「恥である」「怠けている」と発言し、最低限の生活すらできない人をさらに死へと追い込んでいます。

大和:私はいまでも、現役の生活保護受給者、特に女性のブログやSNSがないかなぁ、とネットで探しています。実態を知りたいし、情報交換できればと思って。でも、ないんです。一方で、現役風俗嬢が、お店の宣伝以外で個人的にやっているブログはたくさんあります。

雨宮:なるほど、生活保護より風俗のほうが恥の意識が薄いんですね。でも、国会議員は別として、生活保護バッシングをする人の声に耳を傾けると、彼らも生活が苦しいんだと身につまされることがあります。地方では正社員でも月10万円がめずらしくないですし、東京でも業績悪化で出勤を減らされてそれ以下という人たちがいます。しかも長時間労働で、安くこきつかわれている。私自身、フリーター時代はぜんぜん稼げなかったから、そのときに生活保護の受給額を聞いたら、同じく怒っていたんじゃないかなぁ。生活保護受給者を既得権益と感じて叩くというのは、ふつうに働いている人たちの基準がそれほどまでに下がっている表れですよね。全体が地盤沈下しているという、とんでもない状況です。

無職になって以降、自分のことを誰にも話せなくなりました

――そうして肩身の狭さを強いられている生活保護受給者が、周囲との交流を断ち、孤立することもめずらしくないようですね。

大和:私は家族との折り合いが悪くて絶縁状態にあるうえに、そもそも友だちも少ないのですが、無職になって以降、自分のことを誰にも話せなくなりました。虐待家庭、失職、貧困、生活保護……までいくと、聞かされた人も手に負えないでしょうから。だからカウンセラーや精神科医など、プロの人以外には話さないと決めていますが、もうちょっとだけ吐き出したくなって、ブログを始めたんです。

雨宮:生活保護受給者のなかでも特に女性はみなさん、「人づきあいできないのがつらい」とおっしゃいます。お茶するには飲食代がかかるし、家を訪ねるにも交通費がかかる。人間関係の維持って、無料ではできないんです。

大和:メールぐらいは出せるけど……。先日、ついに携帯電話が壊れたので解約しました。メモリのデータも飛んじゃったから、永遠にサヨナラとなった人がけっこういます。

雨宮:私が関わったことがあるなかでも、携帯とパソコンが壊れて「誰ともつながっていない」と感じた瞬間、自殺の衝動におそわれた人がいます。そのちょっと前まで、彼は崖の下で夜露をしのぐホームレスだった。そこから行政の支援につながり、住む場所を得て、これから仕事を探して生活を立て直そうという矢先だったんです。人が死にたいのはドン底の生活をしているときよりも、「誰ともつながっていない」と感じたときなのかもしれませんね。

貧困に陥ってもまったく自分を責める必要はない

――最後に、読者にメッセージをお願いします。

大和:もし生活保護を受けていたり、申請するかどうか悩んでいる人がいたら、ブログやSNSで書いてください。私も読みたいし、きっと誰かの役に立つと思うんです。あと、前編でも触れたように「生活保護は福祉である」「借金より生活保護が健全である」ということを覚えておけば、貧困に陥っている女性も、いまはいいけど将来が不安な女性も、精神的に楽になります。これは「生きていていい」という制度なんです。

雨宮:アラサーの働く独身女性は、かなり貧困リスクが高い存在です。結婚すればそこから抜け出せるとはいいませんが、独身で生きていくほうが、統計的に貧困率は高まってしまう。年齢があがるほど仕事を見つけにくく、さらに続けにくくなるからです。でも、こうした女性の貧困は、いろんな政策が時代にそぐわなくなってきて、そのシワ寄せが女性にきているだけの話なんです。しかも、これは世界規模で起きている現象で、各国がその対策に必死になっていますが、日本ではまったく手を打っていない状態。そう考えると、まったく自分を責める必要はないとわかるのではないでしょうか。あとは、生きるための制度を知っておくことです。

――そのひとつが生活保護ですね。

雨宮:ほかにも第二のセーフティネット的なものが、たくさんあるんですよ。でも、日本ではそれらの制度が隠されていて、こっちから訊かないと絶対に教えてくれません。だから、この『失職女子。』で大和さんもしてたように、役所にいってどんどん訊くことですね。『私のような女性で、こういう状態の人が使える制度をぜーんぶ出してください!』というぐらい強く、そして具体的に訊いてやっと、教えてもらえるものなんです。

●大和彩
大学で美術、音楽、デザインを専攻し、卒業後はメーカーなどに勤務するも、会社の倒産、契約終了、リストラなどで次々と職を失う。正社員、契約社員、派遣社員などあらゆる就業形態で働いた経験あり。現在は生活保護受給中。2013年6月より女性向けwebサイトで執筆活動を始める。

●雨宮処凛
北海道生まれ。作家・活動家。2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビューし、以来、「生きづらさ」についての著作を発表しつづける。同時に、「反貧困ネットワーク」世話人を務め、「フリーター全般労働組合」に参加するなど、貧困問題に積極的に取り組んでいる。

三浦ゆえ

この記事を読んだ人は答えてね!
人が回答しています