DVをなくす加害者更生プログラム

>>>【前編はコチラ】「お前が間違っている」がDVを生む――加害者更生プログラム講師が語る“DVにつながる3つの価値観”とは?

DV加害者の更生プログラムの講師でいらっしゃる、NPO法人女性・人権支援センターステップ理事長の栗原加代美さんへのインタビュー。前編では、今までなかなか焦点が当たってこなかった、DV加害の原因についてお話を伺いました。後編では、加害の原因となる思考のゆがみを変える方法についてお話を伺っていきます。

    「感情」と「生理反応」は、「行為」と「思考」についていくもの

――お話を伺っていて、DV加害者が抱える問題は根が深いのだということを感じました。DVは性暴力などと同様に、再犯率が非常に高いとも聞くのですが、更生は本当に可能なのでしょうか。

栗原加代美さん(以下、栗原):もちろん可能ですよ。更生プログラムでは、このように説明しています。私たちを車にたとえると、車には4つの車輪があって、前輪に行為・思考、後輪に感情と生理反応があります。この車輪の中で変わることができるものは何だと思いますか?

――前輪だと思います。

栗原:そうです。だって、前輪でハンドルを切って、後輪がそれについていくわけですからね。

ここで、ちょっと実験してみましょうか。今晩食べたいおかずを思い浮かべていただけますか? すぐ思い浮かべることができますよね。このように、思考は変えることができるものです。

次に、目をつぶって、また開いてください。こういった行為も、変えることは難しくありません。

それでは、今度は、怒ってみてください。

――嫌なことを考えない限り、難しいです。

栗原:そうですよね。嫌なことを考えれば、少しは怒りが湧いてきます。これは、思考と感情が連結しているからなんですよ。感情は、思考の結果なんです。ポジティブな思考をすれば、感情もポジティブになる。ネガティブな思考をすると、感情もネガティブになるんですよね。

それでは、次によだれを垂らしてみてください。できないでしょう? よだれを垂らすにはどうしますか?

――梅干しの味を思い出します(笑)。

栗原:なにか食べもののことを考えますよね。つまり、生理反応も思考からきているんですよ。

車の例で言えば、ハンドルを切って、前輪である思考と行為をコントロールすると、後輪の感情と生理反応がついてくる、ということです。だから、思考と行為さえ変えれば、DVの原因となる「怒り」の感情は消えるんです。

    「夫婦は同じ価値観をもつべき」 不健全な理想がDVの原因に

――前回は「力と支配」などといった思考のゆがみがDVの原因とおっしゃっていましたが、こういったゆがみをプログラムでは治していくということなのでしょうか?

栗原:そうです。私どもの団体では、心理学における選択理論を使ってプログラムを進めているのですが、この選択理論に「上質世界」という概念があります。人間には従来上質の幸せを求める傾向があって、上質世界は、脳の中でその人が理想的だと思うものが入る場所のことを指します。上質世界に入るものの一例を挙げると、理想的母親像、恋人像、夫婦像などです。

そして、上質世界に対し、現実世界があります。たとえば、とある夫の上質世界に「夫婦は同じ価値観をもつべきだ」という価値観が入っているとします。そうすると、現実で妻が反対意見を出したとき、妻のことを「ふさわしくない」というふうに考えてしまうわけです。そして、妻を「ふさわしくない」と考えるため、「怒り」の感情が出てきてしまい、暴力をふるってしまうのです。

――なるほど、「怒り」のメカニズムが見えてきました。

栗原:さらに、プログラムでは、変えることができるものと変えることができないものをきちんと区別してもらいます。

変えることができないものは他人と過去。だから、パートナーを変えることは不可能なこと、暴力を使って変えようとすると、関係が壊れることなどを学んでもらいます。変えることができるものは自分と今。自分の上質世界や、思考、行為は変えることができます。

前述の例に戻ると、「夫婦は同じ価値観を持つべきだ」という価値観は変えることができるので、その価値観を「夫婦は同じ価値観を持っていなくていい」という価値観に変えていきます。そうすると、妻が夫の意見に反対しても、夫は妻を「ふさわしくない」とは考えず、「君はそう考えているんだね」と、考えることができるようになるわけですよ。

プログラムでは、1年間、自分の上質世界にどんな不健全な価値観が入っているか見ていき、その価値観を変えていきます。選択理論では、自分の行動はすべて自分の選択の結果であるということを強調するので、加害者が被害者を責め続けず、自分のあやまちに向き合うことが可能になります。

    DV防止法だけでは、根本的な解決はむずかしい

――こちらのNPO法人女性・人権支援センターステップで運営されているようなDV加害者の更生プログラムは、日本にはいくつあるのでしょうか。

栗原:10か所ほどしかありません。ですので、こちらにも北海道や九州から参加者の方が毎週いらっしゃいます。

私どものプログラムは横浜市から助成金をいただいて運営しているのですが、日本国内で公的支援を受けている加害者更生プログラムは、私どものプログラムだけです。横浜市にDV加害者更生への理解があったので助成金がおりましたが、まだまだ日本政府は「DV加害者の更生は難しい」という認識です。

――ほかに、政府のDV加害への取り組みにはどのようなものがあるのですか。

栗原:2001年にDV防止法が施行されました。しかし、私は、DV防止法はDV加害の根本的な解決に対しては効果がない法律だと思っています。

DV防止法で定められている保護命令には、6か月加害者が被害者に接近することを禁ずる「接近禁止命令」や、ともに生活している住居から2か月の退去を命じる「退去命令」などがありますが、どちらにしても期間が短いですよね。結局、その間、加害者はなにも変わらない。むしろ、加害者が戻ってきたあと、「チクったな」「警察に言いやがって」と、暴力がさらにひどくなるケースもあります。

加害者がきちんと学び、不健全な考え方を変えなければ、たとえ事件を起こして刑務所に入ったとしても、出てきたあとにまた同じことを繰り返してしまいます。ですので、強制的にこういったプログラムを加害者に受講させる仕組みが必要だと思います。

――社会として、加害者が更生できるように、そしてそもそも加害者を生まないようにするためには、なにができるのでしょうか?

栗原:DV加害者は、自分は当然のことをやっているのだと思っているので、自身が加害者だと気づいていないんです。だから、すでに加害をしている人には、「あなたはDV加害者ですよ」と周りが気づかせてあげることがひとつだと思います。被害者が本人に伝えられればいいのですが、それが可能でない場合もあります。ですから、周りの人も関心を持ってあげて、なにかあるようだったら警察に通報してほしいと思います。

近所付き合いなどが薄くなって、家庭が密室になってしまっていることも、DV加害と無関係でないと思うんですよ。だから、近所となりで気軽にお茶できる関係を作ったりして、社会の風通しがよくなるといいですよね。

加えて、世の中にはDVやパワハラ、セクハラ等、さまざまな暴力が存在しています。当事者が泣き寝入りしたり、周りの人が傍観者になってしまっている現状がある。暴力を見過ごさない、許さないという立ち位置に、私たちが一人ひとり強く立てるといいと思います。

ケイヒルエミ

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