社会に潜む歪んだ価値観がDVの背景

近年メディアで取り上げられることが増え、認知度も高まってきた家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス、以下DV)。警察庁が発表した統計によれば、昨年全国の警察が把握したDV被害は一昨年から12.7パーセント増の4万9,533件にのぼり、過去最多を記録したといいます。

残念ながら、私たちにとっても決して遠くない問題になりつつあるDVですが、DVがなぜ起きてしまうのか、DV関係に置かれている当事者たちはどのように感じているのかなど、DVの実態はまだまだ知られているとはいえません。

『ウートピ』ではこの現状をふまえ、DV被害者支援の専門家、DV加害者更生の専門家、外国人被害者支援の専門家らに話を伺いました。今回は、NPO法人女性・人権支援センターステップの理事長であり、DV加害者更生の講師でもいらっしゃる栗原加代美さんにお話を伺います。

    更生プログラム受講者の9割、「帰ってきたらパートナーがいなくなっていた」

――全国でも数少ないDV加害者の更生プログラムを運営されているとのことですが、簡単に団体の略歴を教えてください。

栗原加代美さん(以下、栗原):私どもの団体は、もともと2003年にDV被害者女性を保護するシェルター運営のために立ち上がった団体です。被害者女性たちと活動を通して向き合っていく中で、「加害者が変わらなければ新たな被害者が出てしまう。根本的な問題解決にならない」と感じ、2011年にDV加害者の更生プログラムを始めました。

――DV加害者の更生プログラムは、今まで何名受講されていますか?

栗原:全部で100名前後ですね。今は70名が参加しています。DVは、歪んだ価値観・考え方によって生まれるので、健全な考え方が習慣化するまで1年間の受講を義務づけておりますが、参加者の約8割の方が更生されています。

――受講者の方はどのような方が多いのでしょうか。

栗原:30代、40代の方が多いです。9割の方が既婚者ですが、デートDVや、結婚前の同棲の段階で来られる方もいます。参加のきっかけに関して言えば、ある日、会社から帰ってきたらパートナーがいなくなっていた、というケースが9割。その後、びっくりしてご自身でDV加害について調べたというケースや、先に私どもの団体に相談に来ていた被害者の方が、逃げるときにパートナーのもとへ私どもの連絡先を書き置きしていくケースが多いです。自発的に来られる方もいらっしゃいますが、少数ですね。

――来ざるを得ない状況があって初めて来られる方が多いとのことですが、来られた方は自身がDV加害者だということを認めるのでしょうか?

栗原:1回目の面談で認める人も多いです。来られた方に、「DVって、なんですか?」と聞くと、ほとんどの方が「ぶつこと・蹴ること」と答えますので、まず、「そうじゃない」と伝えます。「DVは行為ではなく、関係性なんですよ」と。

DV関係というのは、運転にたとえると分かりやすいです。理想的な夫婦関係というのは、夫と妻、それぞれが自身の車を運転しているような関係です。お互いに対等な関係ですし、それぞれが自身の人生の舵をとっているわけですよね。

それに対して、DV関係は、夫が妻の車の助手席に乗って、妻に命令しているような関係です。妻が右にハンドルを切ろうとすると「左に行け」、前に進もうとすると「止まれ」と支配すること。身体的暴力はこの支配の一手段でしかなく、精神的暴力や社会的暴力、性的暴力なども支配の手段として使われます。DVとは本来、パートナーが奴隷化していく主従関係のことを指すのです。こういう説明をすると、大体の方が納得します。「私もそうでした」と。

    「力と支配」「暴力容認」「ジェンダーバイアス」……DVにつながる価値観は社会にあふれている

――DVをしてしまう人の特徴とは何なのでしょうか?

栗原:考え方の中に「俺(私)のほうが偉い」という優位性があることです。「俺(私)のほうが正しい」「お前が間違っている」という考え方が習慣化しているので、そういった意識が言葉、態度、行為に出てくるわけですよ。被害者は、そのようにすべてを否定されるうちに、自分の考えに自信がなくなり、何も考えられなくなってしまう。その結果、相手の言うがままになっていくわけですよね。

さらに、「優位性」の感覚を持っていると、パートナーをある種の「所有物」として考えるようになります。いつも使える召使いのような感覚、もしくはロボットのような感覚になるわけです。

最近ではストーカー事件に関連してテレビに出演することが増えたのですが、DVとストーカー事件というのは、根っこが同じなんですよ。DVが、一緒にいるときに起きる支配だとすると、ストーカーは、相手が離れているときに起きる支配なんです。相手は別れたいのに、自分は別れたくない、と自分の意見を押し付ける。相手を自分の所有物だと認識しているので、「逃げていった所有物を取り返そう」と考える。これも、相手の意思を軽んじた、精神的支配なんですよ。

――DV加害者は、どのようにしてこういった価値観を持つに至ってしまうのですか?

栗原:社会が教育しているのだと思います。世の中にそういう価値観があふれているんです。

DVの原因は4つあります。1つ目は「力と支配」、つまり、自分のほうが偉いと思う価値観のことです。これは社会の至る所で見られます。たとえば、上司と部下だとか、先生と生徒、あるいはスポーツ界ですとコーチと選手、というような関係の間に「力と支配」があるわけですよね。上の立場の人がいばって下の立場の人を支配する、ということを世の中から自然に学んでいくんです。加害者である夫がDV家庭出身者であれば、自身の父親が母親に怒鳴って、偉そうにしていたことから、「ああ、夫は妻より偉いんだな」と学びます。

――なるほど。2つ目はなんですか?

栗原:2つ目は、子ども向け番組を含め、メディアにあふれている「暴力容認」の価値観。レンジャーものって、なにか問題があると悪者をやっつけて解決しますよね? ご長寿番組の『水戸黄門』だってそうです。あれらは、「暴力で問題解決していい、むしろ暴力を使ってやっつけるのがヒーロー」という価値観に裏付けられているんですよ。こういった暴力容認の価値観が、「妻(夫)が悪かったら、叩いて何が悪いんだ」という考え方になってくるわけですよね。

――たしかにそうですね。暴力は、実生活では決して許されるものではないのですが。

栗原:加えて、ジェンダーバイアス、つまり「女らしさ・男らしさ」に対するゆがんだ価値観も大きな原因です。「男はリーダーシップをとるべき」「男を立てるかわいい女でいなくてはいけない」という価値観が、男は女に従うべきという構図を作ってしまっています。さらに、私どもの団体へ相談にくる加害者の方は、往々にして被害者である妻の痛みや悲しみに共感する能力が欠けている方ばかりなのですが、「男性が感情表現をすることはあまり好ましくない」というジェンダー観が関係していることも考えられます。

最後に、トラウマを原因としていることも多々あります。私どもに相談に来られる加害者の方のうち、小さいときに両親から虐待を受けていた方が9割です。

――そんなに多いのですね。

栗原:多いですよ。トラウマを抱えている人がDVを犯してしまうのは、「愛されている」と感じられずに人格の土台が作られてしまうと、「人を信じられない」などのゆがんだ考え方を持つようになってしまうからです。こういったゆがんだ考え方が内的にいくと、引きこもりや鬱病などの精神の問題につながりますが、外的にいくと、他人に対する暴力になっていく。

DVの場合、本来は両親に向かう怒りがパートナーに向かってしまいます。たとえば、パートナーに声をかけたのに返事が返って来なかったとき、親に無視されたことを重ねてしまって、「パートナーは忙しかったのかもしれない」「聞こえなかったのかもしれない」と考えられずにそのまま逆上して殴ったり蹴ったりしてしまう。トラウマがあるために、普通だったら気にならないようなことに対して、怒りが爆発してしまうんですよ。

ここまで、これまでなかなか焦点が当たってこなかったDV加害の原因について伺いました。後編では、DVの原因となる、加害者の思考や価値観のゆがみをどう変えていくのかについてお伺いしていきます。

>>>【後編に続く】「夫婦は同じ価値観を持っていなくていい」 DV加害者更生プログラム講師に聞く、DVをなくす方法

ケイヒルエミ

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