国連を辞めた女性作家の「大事なもの」

日大芸術学部を卒業後、アメリカの名門大学に留学して中南米の文化を研究。アメリカ国内のコンサル会社や日本のシンクタンク勤務などを経て、31歳でパリの国連に見事転職! まさにすごろくのような華麗なキャリアなのに、たった5年半で手放し、フリーランスの道を歩んだ女性がいます。サンジェルマン・デ・プレのアパルトマンに住み、週末は郊外までドライブ。セルビアやナイジェリア、ノルウェーなどから来た仲間とともに、世界の誰もが知る機関で働くなんて、超楽しそうなのに~! そんな5年半のパリ生活と国連での日々をまとめた、『パリの国連で夢を食う。』(イースト・プレス)を出版したノンフィクション作家の川内有緒さんに、「華麗なキャリアよりも大事なもの」について伺いました!

国連では驚きの「毎日サファリパーク状態」

――留学を経てコンサル会社やシンクタンクなどでもお仕事をされていますが、これだけでも十分なキャリアなのに、なぜ国連を目指したんですか?

川内有緒さん(以下、川内):シンクタンクでの仕事は充実していたけれど、仕事以外は充実してなかったんです(苦笑)。家に帰っても寝る時間しかなくて、生活もすさんでいて。アメリカではそこまで忙しくはなかったけれど、雑務に追われるばかりで。先に進みたい思いから、ネットで求人情報を探していたら国連が見つかったので、今いる場所から抜け出したい思いで応募したんです。

――誰もが憧れる国連って、実際どんなところだったんですか?

川内:私は本部で教育関連のリサーチなどを担当していましたが、早く現場に出たいと思っていました。しかし、人事が硬直化しているのでそれが難しかったです。また、民間企業からの転職だったこともあり、驚きの毎日でした。たとえば日本の企業では「今日からゴミの分別を徹底して」と言われたら全員が守っていたのに、国連では紙のリサイクルすらできていなかった。予算がなくて専用のゴミ箱すら買えない部署もありましたが、そもそも新しいことを導入するのが本当に大変な組織だったんです。

あとは正規と非正規雇用の差が激しく、非正規から正規になるには何年もかかるから、その間に別の道を探す仲間もたくさんいました。でも、なかには日本と違い、祖国に帰っても仕事がなかったり、国が内戦中で帰れなかったりする人もいて。そんな彼らは世界中から集まっているので、服装も価値観もバラバラでした。だから「毎日がサファリパーク状態」だと思っていたけれど、それは自分の物差しで見ているからそう思うだけで、彼らからすれば、私も変わった人なのかもしれない。それに気付かせてくれた場所でした。

お金や安定したキャリアにしがみつくよりも、自分の思いを選んだ

――5年半で退職して、作家を目指しましたよね? 不安はなかったのですか?

川内:決してつまらなかったわけではなかったけれど、どこかぬるま湯的なところがあったので、「人生これでいいのか」と思ってしまって(笑)。仕事はそこそこでプライベートを楽しむよりも、仕事を充実させたいという思いがあったので、辞めて文章を書いて生きてみたいと思いました。お金や安定したキャリアにしがみつくよりも、自分の思いを選んだんです。でも最初のうちは強い決意というより、なりゆきに任せたところがあります。フリーランスは不安定かもしれないけれど、必ず何とかなる、生きてればなんとかなるとずっと思っていたので、不安はそれほど感じませんでした。

本に登場するI君という男性が夫なのですが、夫婦揃ってフリーなので、周りからは心配されています。この間なんか知人から「I君にピッタリのバイトがあるよ。着ぐるみの中の人だけど」ってメールがきて。どんな生活をしてると思われたんだろう(苦笑)? でも、私はフリーになった今のほうが幸せだし、彼のほうはスーパーポジティブだから一緒にいると楽天的になれます。パリにも明日もわからないほど不安定な人がたくさんいましたが、ポジティブな人は大抵うまくいっていました。

目標や計画で身動きがとれなくなる前に、自分の心の声に耳を傾けて欲しい

色々と考えすぎて踏み出せない人って、最近すごく多いと思うんです。でも不安材料を集めて諦めてしまうより、考えすぎる前に一歩踏み出して欲しい。未来が不安な気持ちはわかりますが、何年も考えていたら時間だけが過ぎてしまいます。

「お金が貯まったら」とか「この技術が身についたら」とか、目標をきっちり立ててから行動すべきだと考えている人もいますが、もう少し感覚的に生きてみてもいいと思うんです。目標や計画で身動きがとれなくなる前に、自分の心の声に耳を傾けて欲しい。人生、取り返しがつかなくなるほど酷いことってそんなに起きないと思うし。そして、何かを維持したまま次を目指すよりも、手放してからの方が甘えも出ないので、うまくいくことも多い。私も国連を辞めたから、作家としての一歩が踏み出せたのだと思います。そんな「不安で一歩が踏み出せない」という人にぜひ読んでもらえたら。きっと楽になれるんじゃないかと思います。

(久保樹 りん)

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