がん早期発見の画期的検査方法

「NEDO」の山崎知巳さん

10月は乳がんの早期発見と検診受診の大切さを広めようという「乳がん月間」ですが、今年8月、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や独立行政法人国立がん研究センターなどが、日本人に多い、胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、すい臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫(しんけいこうしゅ)という、13種類のがんを1度の採血で診断するシステム開発への着手を発表しました。

日本ではがん患者が年々増加傾向にあり、3人に1人はがんで死亡、患者の10人に4人は5年以内に死亡するという現状があります。そこで大事なのは、やっぱり早期発見。とは言え、20代、30代の健康な若い人が、時間もお金もかかるがん検査を受けようとは、なかなか思えないのが実情では? ところが、この研究が成功すれば、健康診断時に採血した血液をたった0.7ml使うだけで検査が可能になるというのです。スバラシイ! というわけで、その詳しい研究の内容について、NEDOバイオテクノロジー・医療技術部長の山崎知巳さんにお伺いしました。

マイクロRNAを調べればがんがわかる

――研究が成功すれば、たった1度の採血で13種類ものがんが診断できるようになる、ということで本当に驚きました。なぜ採血だけでわかるのでしょうか?

山崎知巳さん(以下、山崎):2008年以降、今まで「ごみ」のようなものと思われていた、血液、唾液、尿など体液に分泌される「マイクロRNA」が、実は病気の診断に重要な生体物質だということがわかってきました。この頃から本格的な基礎研究を行ったところ、その量や種類に着目すれば、どの臓器にがんがあるのか、がんの進行度や転移しやすさが診断できるだろうということがだんだんわかってきたんです。だったら、みなさんに使ってもらえる技術にしようということで、8月18日に大規模な研究に着手します、と記者発表を行いました。

――「マイクロRNA」という言葉が出てきたのですが、これは何でしょうか?

山崎:ちょっとアカデミックな話になってしまうんですが、細胞の核には、生体の設計図であるDNAがあります。人間は、DNAの情報をさまざまなRNAという物質に転写して生体活動を営んでいます。RNAはAGCU=アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルという、塩基の順列の組み合わせでできていて、このRNAの中でもすごく小さいものをマイクロRNAと呼びます。人間には、全部で約2,500種類のマイクロRNAがあるんですが、正常細胞ががん細胞になるとその細胞から分泌されるマイクロRNAの種類が変わるんです。マイクロRNAは便宜上番号で呼ぶことが多く、健康時と比較して、例えば、乳がんになるとマイクロRNAの195番が多く分泌されるようになるというようなことがわかったんです。

――驚きの発見ですね。そこまでわかっているならば、すぐにでも実用化できそうですが、今はどんなことを研究しているんでしょうか?

山崎:大規模な疫学研究に着手したところです。すでに100人分ぐらいの乳がん患者の血液を調べて、乳がんの患者ではマイクロRNAの195番が多いということはわかってきているんです。しかし、この程度では命にかかわる「がん」という病気の診断法として、信頼性は十分ではありません。そこで、それぞれのがんのマイクロRNAについて5,000人分の患者の血液を調べようと決めたんです。これまで小規模に行っていたものを今後5年間をかけて大規模に行うことで、がんの診断マーカーとしての信頼性を確認し、新しいがん診断法として実用化を行っていきます。

――そうすると、実用化の時期は5年後になるということですか?

山崎:がんの種類によって、研究が進んでいるものとそうでないものがあります。乳がんは研究が進んでいるので、おそらく数年以内に実用化ができるんじゃないかと言われています。その他のがんも5,000人の検証が済み次第、順次実用化されていく予定です。

13種類のがんが0.7mlの血液のサンプルでわかる

――この研究が成功し、このがん検査を受けた場合、どんなことがわかるようになるのでしょうか?

山崎:13種類のがんの診断をはじめ、進行度とともに、進行が穏やかでおとなしいがんなのか、転移など悪いことをしでかすがんなのかなど“がんの顔つき”、悪性度もわかるようになると期待しています。しかし、この検査は、なんといっても健康だと思っている人の中で、実はあなたはがんになっている可能性が高い、というがんを早期に見つけるための検査として重要なんですね。

現在のがん検診は、早期のがんの発見には限界がある上、肺がんにはX線の検査、胃がんだったらバリウムを飲んでの検査、乳がんは胸を強く圧迫して撮影するX線のマンモグラフィー、子宮頸がんならば子宮頸部から細胞をとって調べる細胞診など、それぞれの検査を受ける必要がある。検診としては非常に心理的ハードルが高く、お金もかかるため、健康な方がすぐに検査しようということにはなりにくいんですね。それを採血だけにして、患者の負担を極力減らすことを目指しています。

――採血でわかるということですが、どれぐらい血液が必要なんでしょうか?

山崎:たった0.7mlの血液のサンプルでわかってしまいますよ。ですから、会社などで健康診断を受けた時に血液検査の血液を少し分けてもらえば、それでがんかどうかもわかります。検査料金も負担が少ないように2万円を目標にしていてます。現状だと、1つのがんの検査で2万円近くかかってしまうこともあるので、13種類のがんが2万円でわかるなら、大きな負担ではないのではないでしょうか。

がん早期発見の画期的検査方法

検査に必要な血液はたった0.7ml

――なお、今回の研究では、女性が気になる子宮頸がんは入っていなくて、ちょっと残念でした。

山崎:子宮頸がんの場合は、「パピロマウイルス」がほとんどの原因となっているんです。そのため、原因を絶つためのワクチンを打つ、という予防の手段があるので今回は外しています。調べる数が多ければ多いだけ、時間がかかってしまうので、今回は13種類に限定していますが、子宮頸がんを始め、その他のがんも小規模ではありますが、研究は進めていきます。

寝そべるだけで乳がんの診断ができる装置

――話は変わりますが、9月4日に、女性の負担が少なく乳がんの診断ができる、乳がん患者用の乳房専用陽電子放射断層撮影装置(PET装置)「Elmammo(エルマンモ)」を発売されたそうですね。マンモグラフィーは、胸をぎゅーっと挟まなければならなくて、とても痛かった印象がありますが、この装置だと横たわるだけで検査できるとお聞きしました。

山崎:これは、今までお話していた採血の検査の「がんを探す」より一歩先の「位置をつきとめる」検査で、うつぶせに寝そべるだけでいいんです。乳房を入れるベッドの開口部中にセンサーがついていて、穴に5分ほど乳房を入れるだけで、センサーががんの位置を検知することができるんです。デザイン的にも、女性の意見を取り入れて、ピンク色で可愛らしくしています。

――貧乳や巨乳など胸の大きさはは関係ないのでしょうか?

山崎:穴の直径が18.5cmあるので、大丈夫だと思いますよ。ただ、日本人の方は大丈夫なんですが、本当にものすごく体の大きい外国人の方までは、想定していないです。まずは、国内の普及から……と考えております。

――どちらで利用できるのでしょうか?

山崎:京都大学に物自体はあるんですが、まだ発売されたばかりなので、利用できる病院がないのが現状です。おそらく、これから全国のがんセンターなど、大きな病院でご利用頂けるようになるのではないかと思います。販売元の島津製作所の今年度の販売目標は10台と少ないんですが、来年度はどっと普及させたいですね!

上浦未来

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